【 オーダーメイドの指輪を作る過程 】
お客様から模様として指紋を入れる結婚指輪のご注文をいただきました。
メンズは印台、レディースは2本の指輪を重ねたようなクロスデザインで指輪の形が違うのでこの指紋模様という共通点を作りました。
今回は指輪の形は複雑ではないので、この指紋模様の話を中心に書いていきます。
サンプルの指紋リング
写真は店頭で用意してる結婚指輪サンプルの「フィンガープリント」です。
この指輪ができるまではブログ#068 指紋リングで詳しく書きました。
指紋はCADデータで原型に模様として入れるので、レーザー刻印と違って無料です。
指紋を模様にする方法は画像のように紙からPCに取り込んで、データ化して指紋の一部を指輪の幅に合わせてトリミング、指輪の表面から0.5㎜の深さで凹ませて模様にしています。
指紋シートを作る
ご来店のお客様とは打ち合わせ時に指紋を入れることに決めて、後日CADでデザイン画を作り、メールで送りました。最初のデザイン画のときはまだお客様の指紋を取っていないので結婚指輪「フィンガープリント」のデータを使っています。
その後、ご返信があり、受注ということになったので、試着リングセットと一緒に送る「指紋を取る専用用紙」も作ることにしました。
指紋を取るスタンプ台も試着リングセットと一緒に送るのでまずはコピー用紙に試してみました。
紙はつるっとしていても問題はありませんでしたが、強く押しすぎると潰れたり、インクが足りないと薄すぎてスキャンできないこともありそうなので、失敗してもいいように指紋を押す枠を複数用意することにしました。
完成した用紙がこちらです。
文字だけだと寂しいので
上部には左から
・指紋マリッジリングの見本
・指紋の一部を切り取って模様にしている画像
・濃淡の違う指紋跡
の3枚を並べて
どういう工程で指輪の模様になるか
イメージしやすくしました。
その下には
「指紋の取り方
指輪の指紋模様はPCに取り込んでデータを作ります。
いくつかある中からスキャンしやすい濃淡の指紋を選びますので
同封のスタンプを使って同じ指で下記の10マスに指紋を押して下さい。
指はスマホの指紋認証機能で通常使わない、
結婚指輪を着ける左手薬指がおすすめです。
特に指定がなければ男性の指輪には女性の指紋、
女性の指輪には男性の指紋を入れます。」
という風に説明を加えました。
説明分の横には見本の指紋、その下に男性用10マス、女性用10マスの空欄を作りました。
一人10マスは多い気もしますが、練習もこのシートで出来ると考えて、多めに用意しておきました。
専用シートができたら試着リングセットにスタンプと指紋を拭き取れる小さいウェットティッシュを添えて発送します。
この後、指紋シートが戻ってきたのですが、メールのやり取りで指紋が上手く取れないとあったので、
「指をスタンプ台に何度も押し付けて、
インクを多めに付けてから①→②→③という風に
スライドして押していくと、徐々にインクが
薄くなるので丁度良い濃淡の指紋が取れます。」
という文章を指紋シートには追加しておきました。
今後、指紋の取り方に関してはブログに写真付きでUPするかもしれません。
お見積りをメールする
今回受注の指輪はメンズが印台で正面に指紋を入れます。
お見積りの段階でお客様には完成イメージ図を送り、シグネットリングの指紋は①の上下左右から模様がはみ出し、②の上下はみ出し、③の印台からはみ出さない3パターンを仮で作って、3つの中から選んでいただきました。
レディースは指輪の内側に入れます。
メンズが正面なので対になるように
クロス部分に合うようにトリミング、
指輪のカーブに合わせて指紋模様を入れました。
これでお客様に完成イメージ図を送ってOKが出たら
樹脂造形に入ります。
ちなみにこのクロスリングは
お客様の画像持ち込みで作りました。
店頭で用意してるサンプルリング、トリニティの原型データを修正して作っています。
デザイン画は形が分かりすいようにコンビリングも作ってお送りしました。
その後、受注となったので、印台リングは店頭の見本をそのままでOKが出たので試着リングは原型をサイズ直し、レディースの試着リングは内側にフィット感が合うようにご希望の幅の指輪の上下に凹みを作り、試着セットのレターパックに入れてお送りしました。
指輪の原型データを作る
指紋シートが戻ってきたので原型データを作っていきます。
用紙はスマホで写真を撮って、画像修正ソフトで影を取り除いてモノクロの線がくっきりした状態にします。
これをイラストレーターに取り込んでCADにインポートできるデータに変換します。
画像選択、上段のタブの画像トレースで写真(高精度)を選択して線をクッキリさせて、
拡張ボタンを押してアウトライン化します。
CADにインポートするとこのようになります。
ここから指輪の幅に合わせて拡大、指紋の中心から長方形にトリミングをしていきます。
制作時の注意点としては
①樹脂原型の模様では幅0.3㎜の隙間が必要なので指輪の幅に合わせて拡大する事
②CADにインポートしたデータは2重線になっているので不要な線を消さないと立体にした時にエラーになってしまう事
の2点です。
この後、レディースは幅の変更があって、最終デザイン画は上のようになりました。
デザイン画ではイメージが掴みにくいという事で、
画像のような幅2.8㎜の甲丸ワイヤーワックスでおおよその形を作ったところ、イメージ通りということで、見本と同じ幅で作ることになりました。
メンズ、レディースの指紋模様はどちらも①フチなし、②フチありの2パターンを作って選んで頂きました。
今回は文字刻印は不要との事で、金種などの刻印はメンズは指紋の裏、レディースは指紋の反対でご提案しました。
メンズの指紋模様は表面に対して0.5㎜の深さで凹ませています。
レディースは裏面に模様が入るので、指紋データを反転させて指輪と重ねてから削っていきます。
最初は指輪を丸めてから指紋も模様を入れていましたが、データにエラーが出たので、平面上で指紋模様を入れてから板を丸めて指輪にしました。
この状態でPDFで最終のデザイン画、刻印見本を作ってお送りしました。
指輪を作る
その後、デザインのOKが出たのでCADデータを造形用に完成させました。
樹脂原型からご納品まではこれまで通りです。
K18で鋳造、
サイズを出して、
刻印を入れて、
仕上げて完成です。
こちらがご納品一式です。
最初はご来店していただきましたが、お住まいは遠方だったのでご納品の指輪セットは宅配でお送りしました。
HPで公開する
ご納品後にはこれまで通り、作品集のページで公開します。
指輪の形状は全く違いますが、共通点が指紋なので投稿時の名前は少し迷いました。
最終的には形状の名前、Signet & Cross(シグネット アンド クロス)にして、ここまで書いてきた話を簡潔にまとめてWORKSのページに投稿しました。
まとめ
受注した指紋模様リングについては以上です。
指紋はレーザー刻印で入れることが一般的だと思います。今回の作り方はCADで原型模様として入れることで追加料金が不要、指紋という世界で一つの模様がデザインのアクセントにもなるので、シンプルな指輪をご希望のお客様にはおすすめする予定です。
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