【 オーダーメイドの指輪を作る過程 】
結婚指輪のサンプルとして中心に彫り留め、正方形のマスにそれぞれ違った仕上げが入った指輪を3,4,5,6㎜の幅で作り、クレイジーパターンという名前でワークスに投稿しました。
“クレイジーパターン”という言葉は和製英語でカラーや柄の違うものを複数組み合わせた洋服などに使われます。
このアイテムは一枚で主役になる存在感があるので、そのイメージで複数の仕上げを組み合わせた指輪を作ってみました。
今回のブログではこのクレイジーパターンリングをHPで公開するまでを書いていきます。
デザインを考える
もともとは写真のカリグラフィーリング(ブログでは#076)を作るときにレーザー刻印で文字を入れる予定からCADでの制作に変更したことで4種類の真鍮甲丸リングが余ったので手作業で出来るサンプルを作ることにしました。
以前に作ったオーダー結婚指輪の見本HANDMADEはすべて単色で仕上げ、彫り留めの組み合わせで30本を作りました。
そこからオーダー手順の説明用とより個性的なデザインの見本として写真のコンビリングを作りました。
この指輪はこの後の公開予定のブログで詳しく説明しますが、平打ちと甲丸を斜めにカットして半分ずつ繋げ、仕上げはつや消しと槌目、平打ち部分の半分(リング全体の4分の一)に連彫りをしたコンビリングで写真のように正面の向きを6つのパターンから選ぶことができます。
ここまで色々な要素を詰め込んだ指輪は今まで作っていなかったのでINDIVIDUAL(インディビジュアル/個性的な)という名前にしました。
内容は選べるテクスチャーも1種類だけではないことをことも書いています。
この指輪を作るまではテクスチャーはあまり多すぎるとデザインがゴチャゴチャするので2種類くらいがいいと思っていした。
HANDMADE、INDIVIDUALと作ったことで他にはどんなサンプルがあったほうが良いか考えたときに画像のクレイジーパターンシャツのようにそれぞれ違う模様でパッチワークのように並べた甲丸を見本として用意してもいいかもしれないと思いました。
オーダーメイドなので仕上げはいくつでも好きなものを選べて金額も変わりません。
すでに結婚指輪のブロックスという指輪があります。
この指輪は5種類の正方形パーツを繰り返して1本の指輪にしています。
このブロックスを参考に4種類の真鍮甲丸リングで仕上げをパッチワークのようにしたクレイジーパターンの指輪を作ったら面白いかもしれないと思いました。
幅ごとにブロックの大きさも変わるので4本を並べた時のインパクトもあり、他では見かけません。
ブロックスは1周模様が入る関係で幅広はサイズ調整が難しいので、今回のサンプルは半分は甲丸リングのままにしてテクスチャーブロックとシンプルな甲丸にします。
それからこれまでに作っていない指輪でリガードリングではアレンジ例として幅広リングへランダムに宝石を留めるデザインのイラストを作りました。
これまでに幅見本、
内石&レーザー刻印見本と作ってきたので
今回作る指輪は仕上げ&石留め見本も兼ねたデザインにしようと思い、中心のブロックには彫り留めをすることにしました。
こちらがメモ帳に書いたデザインスケッチです。
幅3㎜には4PCの彫り留め、
幅4㎜には1PCを後光留め、
幅5㎜には複数石を※あわ留め(玉留め)、
幅6㎜には複数石をランダムに覆輪留めをします。
※彫り留め部以外の地金板表面を玉を敷き詰めたように丸める留め。玉を丸める作業をあわ打ちと呼びます。
指輪を作る
おおよそのデザインが決まったら早速、指輪を作っていきます。今回は加工のポイントなども書いていきます。
まずは幅3、4、5、6㎜の甲丸リングを用意します。
指輪の正面に対して垂直に幅0.3㎜の糸鋸で溝を入れます。
これが多少は曲がるので糸鋸を横にして真っすぐになる様削って微調整します。
溝が少し広くなってある中心線が真っすぐになったら幅0.5㎜の糸鋸でその溝をなぞります。
これでまっすぐな0.5㎜幅の溝ができるのでケガキでこの線から左右に正方形ができるようにラインを引いて先ほどと同じように0.3㎜の糸鋸で溝を入れる作業を繰り返していきます。
糸鋸は2本用意して0.3、0.5㎜を張っておくと鋸刃を張り替える手間がかかりません。
指輪の半分まで正方形ができたらリューターに写真のようなシリコンゴムを取り付けて凸凹している糸鋸の溝を磨いていきます。
幅0.5㎜の溝に合う極細のシリコンホイールは売っていません。幅1.0㎜のシリコンホイールを回転させてダイヤモンドポイントを横から当てて細くして作ります。
これで磨くと写真のように溝がピカピカになります。
今回は指輪の中心の正方形に石留めをするので正方形の数は奇数で作ります。サイズは15号で、指輪の半分は甲丸のまま残すと3㎜は9個、4㎜は7個、5・6㎜は5個の正方形ができました。
ここからはテクスチャー(仕上げ)を入れていきます。4本の指輪は並べて撮影するときにランダムに入れられるということがわかるように中心の正方形に対して仕上げが同じにならない配置を考えます。
どの正方形にどの仕上げを入れるか決まったら早速作業に入ります。
今回の仕上げは時間短縮のためにすべて彫金机のスリ板の上でできる方法を選びました。
例えば鏨荒らしは彫刻台に固定して鏨とオタフク槌で叩いて面を荒らす
→リューターにスチールバーを付けて色々な角度から当てて鏨荒らし風に荒らす
槌目は芯金に入れて金槌で叩く
→ヤスリで面をつけてシリコンホイールでヤスリ目を取る
という風に作業しています。
キサゲ(表面の凸凹を取るための刃物)を使うクロススクラッチは当てる正方形の両サイドにはセロハンテープを張って傷がつかないように作業をします。
今回溝を0.5㎜とやや広めにとったのも隣り合う仕上げの違いが分かりやすくなるというだけでなく、溝が狭すぎると仕上げ作業で隣のマスに傷がつくためという理由があります。
仕上げが終わったら4本の指輪の正面のマスに彫り留め、仕上げをしてメッキに出します。
仕上げ見本で金色がなかったので今回は4本ともK18でメッキする予定でした。
ただ、メッキ前の真鍮の状態で加工過程の写真を作ってみるとテクスチャーが多いせいか野暮ったい感じになりました。
画像修正で黄色を抜いて銀色にしてみると目立ちすぎず、良い感じだったので今回は4本ともロジウムメッキにすることにしました。
HPで公開する
指輪が出来たのでワークスに投稿してホームページで公開します。
名前はクレイジーパターンにしました。
ファッションでよく聞く言葉ですが、和製英語のようで辞書には載っていませんでした。ここでのクレイジーは「不揃いな」という意味になります。
形状から考えてブロックス×ラウンド、クレイジーテクスチャー、テクスチャーブロックスなども候補にありましたが、宝石も入れたのでテクスチャー(仕上げ)だけではなくなったこと、一般にクレイジーパターンという言葉自体が浸透していて指輪を見て意味が分かりやすいのでこの名前にしました。
投稿した内容はこれまで書いてきた話と指輪の半分はシンプルな甲丸なので正面に向ける面で個性的なクレイジーパターンとの2種類から選べるということも書きました。
金額は仕上げが何個でも幅の変更しか追加料金はかかりません。
結婚指輪ブロックスのページにもアレンジ例として画像と説明を追加しました。
この指輪は他でもありそうでなく、お勧めなのでワークスに投稿したらトップページのフォトギャラリーにも追加します。
①は真鍮の溝が入った状態で原型のイメージです。
②は幅によってできる石留めの事例、どんな石留めができるかのイラストを作りました。
留め方は日本ジュエリー協会から出ているジュエリー用語辞典を参考にしています。
③には仕上げ一覧と結婚指輪のブロックスを並べました。
④は今回の完成した4本です。これまでのフォトギャラリー同様に①②③が出来上がるまでの経過やアイデアで④がその結果、完成品といった並びになっていて、ワークスに投稿したクレイジーパターンへのリンクも張ってあります。
4本は仕上げがスマホの小さい画面でも分かりやすいように大きめにして配置しました。
④は画像のように石留め前に画像修正で色を抜いた状態で4本の並べ方を3パターン考えて右下に決定しました。
まとめ
使わずに残っていた4種類の幅が違う甲丸リングを見て、手作業でできるデザインで何かこれまでに作っていないサンプルは出来ないかと考えて今回のクレイジーパターンが完成しました。
複数の仕上げを使っていても単色地金なのでパッと見はシンプルでも、お客様が好きな仕上げと配置を決められるなど所がオーダーメイド向きのデザインになったと思います。
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