【 オーダーメイドの指輪を作る過程 】
結婚指輪のご注文で同時期に写真左のようなデザインが異なるクラダリングをお作りしました。
クラダリングはアイルランド発祥の伝統工芸でハート、手、王冠のあるデザインが特徴です。
上が当店でご用意していたケルト編みの入ったクラダリング、下がお客様のご希望でデザインから作った新型です。
結婚指輪でご用意しているサンプルと違う形で、これまでブログでは書いていない内容なので今回はこのクラダリングができるまでを書いていきます。
関連のある過去3回は下記からご覧下さい。
ご納品後に模様タイプは現代風なので結婚指輪ページではCLADDAGH→CLADDAGH(MODERN)に、上の形は昔のタイプなので反対語の古典からCLADDAGH(CLASSIC)という名前でよりシンプルな形にして結婚指輪ページに新しく追加しました。
クラダリングと似たデザインでフェデリングという指輪があります。
今回のオーダーとも関係するので、このフェデリングについても簡単に説明します。
イタリア発祥でクラダリングよりも歴史があり、元々は写真のような男性と女性が握り合う手を解くと愛情を意味するハートが現れる仕掛けになった形が一般的で、婚約が決まるとこの3本で一組の指輪を花嫁、花婿、立会人が1本ずつ持ち、結婚式の時に一つにしたと言われています。
これは時代とともに手を握った状態の仕組みがないデザインが主流になっていきました。
なので、その成り立ちの歴史は違いますが、デザイン上は手だけ、手とハートはフェデリングこれに王冠が付くとクラダリングとなります。
それではここからは今回ご注文のあった
①通常のクラダリングのご注文
②新型クラダリングのご注文
の後に
③新型クラダリングをマリッジページに追加する
という流れまでを説明していきます。
①通常のクラダリングのご注文
まずは通常のクラダリングです。
お客様からメールでアイランドで知り合ったので結婚指輪としてクラダリングを作りたいというご依頼をいただきました。
この時期にシンプルなクラダリングも作っていたので樹脂原型も見ていただくことになりました。
打合せの結果、当店の3㎜幅のケルティックノットが入ったクラダリングをプラチナで作る事に決まったので後日、メールでデザイン画をお送りしました。
デザイン画はCADで作っていきます。この指輪はクラダのハート、手、王冠、袖の部分は同じ大きさでケルティックノットの数と多少の伸縮でサイズを調整していきます。
リングの内周にプラス1㎝で外周の模様を作ると指輪にしたときに平面に並べた模様と同じ見た目になります。
お客様には輪郭がわかりやすい正面・背面からのスケッチ画像と同じ角度と斜めからのレンダリング画像の合計3枚を作ってご納品までの流れをまとめたPDFと一緒にお送りしました。
CADの利点としてデータを作ってしまえば角度を変えたデザイン画としてスクリーンショットで簡単に画像を作れるという点が挙げられます。
このデザイン画でOKが出て正式なご注文となったのでサイズ確認用の試着リングを作ります。
それからお客様から刻印は三つ葉のシャムロックを上下に分割したデザインで作ってほしいというご依頼がありました。
シャムロックとはシロツメクサなど葉が3枚に分かれているマメ科の草の総称でアイルランド語でクローバーを意味します。
この草はアイルランドの国花で聖パトリックという人物がシャムロックの葉が3つに分かれているのは三位一体(父なる神・子イエスキリスト・聖霊)を表しているといってキリスト教の普及に利用したと言われていて、同じアイルランド繋がりで今回のクラダリングにピッタリです。
お客様から参考画像が送られてきたので指輪の上下分割デザインで4パターン作って選んでもらいオーダーシートに記入してもらいました。
メンズは艶消し、レディースは鏡面仕上げです。
このケルト編みは細かいので模様が消えないように丁寧な仕上げをしています。
こちらがご納品風景です。
フォトアルバムは郵送でお送りしました。
ワークスのページでは写真のようにして公開しています。
②新型クラダリングのご注文
①のクラダリングのご注文と同時期にお客様から画像持ちこみで別デザインのクラダリングのご依頼を頂きました。
他社製品なので画像は控えますが、アンティークなどにみられるハートとクラウンが大きいタイプでした。
打合せではメンズはプラチナでレディースは18金イエローで王冠部分にピンクダイヤを入れて、どちらも指輪の腕の幅は3㎜に決まりました。
お持ち込み画像の袖のデザインは装飾が多いので当店のシンプルなフェデリングと同じ形で作ることになりました。今回もデザイン画をメールでお送りします。
打ち合わせが終わったらCADでデザイン画を作っていきます。お持ち込み画像のサイトに試着画像で正面からの写真があったので
輪郭を参考にします。
まずはこれまで作ったフェデとクラダのデータを開いて写真をインポートして、輪郭をスケッチしてここから立体に起こしていきます。
袖と腕の部分はデータがあるのでそのまま使います。
レディースの石はピンクダイヤをご希望だったので見本で見ていただいた1.5㎜で石座も作りました。
この石は鉢の部分に溝が入っているのでダイヤのガードルを入れて反対から爪で留めます。
お持ち込み画像に忠実に作りましたが、
・手とハートの隙間が好きではない、強度が不安
・ハートの形が縦長すぎる
・トップパーツの手は3㎜幅に抑えたほうが形がいい
と思うので新しい形もご提案することにしました。
手とハートの形を作り直して3㎜幅の腕の収まるようにします。
ハートを小さくして王冠と一緒にパーツを中心に持ってくるタイプも作りました。この3つを指輪にしてお客様に選んでもらいます。
それからメンズは地金のみなので王冠部分は3パターン作ってみました。これで指輪の形と王冠を3パターンから選べるようにして完成イメージのデザイン画をお送りしました。
ご提案したは合計4型はこの後の「③新型クラダリングをマリッジページに追加する」で詳しく説明していきます。
お見積りとデザイン画をお送りしてしばらくご返信がなく、4型のデータを作ってこのままお蔵入りはもったいないので、この4型は結婚指輪に新型クラダリングとして追加することにしてサンプル制作を進めていました。
その後、お客様から連絡があり、レディースはハート部分にピンクダイヤを入れて作れないかというご連絡がありました。
結婚式が近いということで納期まで2か月を切っていたので、
・4種類の樹脂サンプル
・サイズ確認用試着リングセット(返送用封筒付き)
・ハート型ピンクダイヤモンドを委託で借りてご用意して
ご来店していただくことにしました。
これなら石座で多少の変更があっても作ってあった4種類の樹脂サンプルで確認した出来上がりイメージから大きな変化はないので納期は1か月ほどで完成します。
ハート型のピンクダイヤモンドはご来店日に合わせて石屋さんから委託で借りておきます。ハート地金部分にφ1㎜のピンクダイヤを3ピース彫り留めも考えましたが、お持ち込み画像をイメージしていると思うので今回はご提案しませんでした。
樹脂原型が出来てから正式なご依頼があったのでご来店して形の確認をしていただきました。
最終デザインは腕の幅はどちらも2.5㎜でレディースはハート部分のみプラチナのコンビリングに変更になり、
この後、打ち合わせ内容をまとめてメールでご希望のデザイン画をお送りしました。
コンビリングになると、このハート部分だけを後で溶接するのでK18の手の形などを微調整しています。
これまで通り2本の指輪が上下に合体させて1つの原型にします。
画像のようにレディースのハートパーツはメンズの腕に取り付けてWAXパターンで上下に分割、それぞれ金とプラチナで鋳造します。
真鍮リングでの試着期間が終わり、サイズが確定したら樹脂原型からご納品まで進めます。地金になって上がってきたら早速仕上げていきます。
ハートの部分だけ先に磨いてカットします。
手の部分を少し削ってハートパーツを押し込みます。
カットした部分を鏨で叩いて押し込むとピッタリ固定出来ました。
コンビ部分だけ指輪の裏側から16金ローで溶接していきます。
溶接したらサイズ出しをします。
手の部分は空洞になっているので無理に伸ばすとそこから亀裂が入るかもしれないので腕の部分を中心に真円を出していきます。
あとは石留め、仕上げをしてレーザー刻印を依頼します。
手の隙間が2か所ある関係でどう刻印をいれるかの簡単な加工指示画像も持っていきました。
指輪が刻印から上がってきたら全体を仕上げて完成です。
こちらがご納品風景です。
ワークスにはCLADDAGH/CLASSICというタイトルで
投稿しました。
③新型クラダリングをマリッジページに追加する
今回作ったシンプルなクラダリングも需要がありそうなので、指輪4本を一つにまとめた樹脂原型を使って結婚指輪ページに新型クラダリングを追加します。
①はお客様の持ち込み画像をベースに作りました。シルバーアクセサリーなどで見かけるトップが大き目な形は手のデザインが好きではなかったので②のために作った形を変形させて手とハートの隙間ができる形に作り直しました。
②はお客様のご依頼からおすすめとして作った形です。手とハートの隙間は補強のために1㎜厚の板を入れています。幅3㎜にハート収めたので王冠部分を削るとフェデリングとしても使えます。
③もお客様のご依頼からおすすめとして作った形で宝石ありの最小パーツデザインとして作りました。
④は宝石なしでの最小パーツデザインで3㎜幅に収めています。
お客様によって好みが分かれる事を考えてこの4種類のサンプルを作っておきます。
樹脂原型はポイズン、スネークと一緒にしていたのでWAXパターンになってから分解します。
ワックスパターンからクラダパーツ部分を取り出して幅3㎜×厚み2㎜のワイヤーワックスと合体させて真鍮で鋳造します。
画像のようにWAXの段階で石座を埋めて、メレ石なしの結婚指輪を作ったり、
ハート部分を削ってハート石座を取り付けて、
婚約指輪風のデザインも作りました。
それぞれ仕上げをしてメッキをして完成です。
どんな指輪を作ったかは次のHPの公開で説明していきます。
マリッジページで公開する
まずはクラダリングのページを修正します。
これまではケルティックノットの入った模様タイプの結婚指輪でした。
今回作ったタイプはアンティークなどでもよく見るデザインがベースなのでクラダ(クラシック)という名前にして、これまでご用意していたケルト編みも入った指輪は現代風にアレンジしているのでクラダ(モダン)という名前に変更しました。
クラダ(クラシック)は写真のようにパーツ部分の形や大きさを調整することができます。
左端の指輪は幅3㎜に収めています。
新しく作ったCLADDAGH(CLASSIC)はアイキャッチ画像をメンズは④で銀色、レディースは①で金色のペアにしました。
①はWAXの段階で王冠部分を埋めて鋳造後にヤスリやリューターバーで形を整えています。
金額は画像のようになっていてレディースはトップパーツの幅が大きいのでその分価格を高くして、④以外は石入りのタイプにする事ができるということも書いてあります。
続いてFEDE(SINGLE)のページを修正します。
これまでは握手タイプでレディースは手が大きいタイプにしていました。
この部分は変更しませんが、ページをスクロールすると内容はフェデリングは手だけと手とハートのタイプの2種類から選ぶことができること(①と②をWAXの段階で王冠を削っています。)
パーツの大きさは変えることができるという内容に変更しました。
これでフェデ(シングル)も4種類から選ぶことができるようになりました。
フォトギャラリーで公開する
今回で新型のクラダリングを何種類か作ったのでTOPページをスクロールしてすぐにあるフォトギャラリーにも追加します。
①は似たデザインのフェデリングを並べました。
②は制作過程のイラスト
③は結婚指輪の2種類のクラダリングをモノクロにしました。
④は写真のような4種類を並べて大きさや形、宝石のアリナシが選べることがわかる画像にしました。
この4枚の画像は①②③の過程を経て④が出来たイメージになります。
リンクはワークスに投稿したCLADDAGH/CLASSICに張っています。
まとめ
元々用意していたデザイン①からお客様のご注文で②が生まれ、そこから結婚指輪の新型やアレンジ例③が出来上がりました。これでまたクラダリングのご注文が入った時に新しいご提案をすることができるようになります。
長くなりましたが、客注新型クラダリングについては以上です。
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