【 オーダーメイドの指輪を作る過程 】
結婚指輪の新型としてトップパーツがクルクル回る指輪を作りました。
「スイベル」という名前で結婚指輪ページに公開したので今回はその流れを書いていきます。
デザインを考える
アンティークでよく見かけるトップがクルクル回る指輪にスカラベ(フンコロガシ)の指輪があります。
古いものでは今から3000~4000年前の指輪がエジプトで発見されていて、画像のような表面にスカラベ、裏面にヒエログリフ(古代エジプトの象形文字)を彫った宝石のトップが回転するデザインが有名です。
スカラベは糞を転がして球体を作るので太陽の運行を司る太陽神と同一視された甲虫で指輪以外にも護符や装身具のモチーフとしてよく用いられます。古代エジプトではこのスカラベリングの腹部に彫ったヒエログリフを裏返して商談や契約の際に印鑑や身分証明として使っていたそうです。
このスカラべリングのトップパーツを指輪の幅と同じで細くすれば印台と似たデザインなので結婚指輪として使えそうだと思い、サンプルを作ることにしました。
最初はトップが回転する指輪なので「リバーシブル リング」などでどんなデザインがあるか画像を検索していましたが、調べてみると「2つの接続点があって回転できるようにした接続部」のことをスイベル(Swivel)ということが分かりました。
検索で参考画像を集めて回転部分の仕組みをどうするか決めて、このトップがクルクル回る指輪、スイベルリングで結婚指輪にふさわしいデザイン、アレンジでイメージが膨らむシンプルな形のCAD原型データを作っていきます。
原型データを作る
このスイベルリングはスカラベリングのように指輪に幅に対してトップが大きめのデザインが多いのですが、結婚指輪ならあまり主張が少ないデザインで幅は細めにします。そうすることで地金も軽く、価格も抑えることができます。
この指輪は動く部分があるのでトップパーツには差し込む丸線、腕の上部には丸線を差し込む穴が必要です。
強度を考えて腕の幅は3㎜で丸線はトップパーツを支えるので直径1.5㎜にします。
このトップがクルクル回る指輪は横長の楕円で表と裏で模様が変わるデザインが多いようですが、
今回は幅を3㎜で厚みも3㎜にすることで断面が正方形になるので4面から選ぶことが可能です。
4面すべてを違う模様にしてもいいのですが、まずは基本となる形として1面はメレを4点爪留めの連彫り風、残りの3面はシンプルな艶消しにすることにしました。
メレは料金一覧表にも載せている直径1.5㎜を使います。これならダイヤモンド以外の宝石もすぐに見積もりが出せます。
マリッジリングとしてレディースの金色リングは透明石で、メンズの銀色はリガード石を入れることにしました。なので石座は6石分が入る幅になります。
この指輪のデザイン上の利点でさりげなく見せる場合は上部、目立たせたくない場合は内側にしまうこともできます。
この回転する指輪は通常はトップの左右から腕に差し込んで外れないようにします。
これを片側だけ外れるようにすれば、指の関節が出た人でも根本のピッタリサイズで作ることができるので片側だけ外れる工夫をします。
トップパーツが外れない片側には負荷がかかるので強度補強できる形状にします。
こちらが完成形で外れる方は腕の穴がφ1.5㎜にました。
外れない方は幅3㎜の腕の内側はφ2㎜で外側はφ1.0㎜にしました。線は長めにして外側の窪みに鏨で叩いてかしめる仕組みです。これはフープピアスの金具などでもよく見られます。
これで原型が出来上がりました。
指輪を作る
データが完成したら、樹脂造形、ゴム型取り、WAXパターンを経て真鍮になって鋳造から上がってきたので仕上げていきます。
今回も他の原型と一緒に樹脂造形しています。
画像のようにトップパーツのピンは左右で形が違っています。
パーツと腕を組み合わせてピンをかしめる予定でしたが、鏨で叩くと金属疲労で折れてしまいました。
そこでピンを一方向に倒して腕の穴に引っかかって外れない仕組みにしました。
あとは石留めをして仕上げて完成です。
アレンジ例としてスカラベリングも作ります。
マリッジスイベルと並べて比較しやすいように表面はスカラベで裏面は横長の楕円にパヴェの指輪にします。スカラベはアンティークでは見かけますが、個性が強いので普段はこのパヴェの面を表がいいと思います。
トップパーツのサイズは縦7㎜、横11.5㎜、高さ4.5㎜で宝石は直径1.5㎜が16PC留まるようにしてあります。このの指輪はワークスに投稿してマリッジリングのスイベルにはアレンジ例として載せます。
スカラベリングはWAXの段階でTOPパーツに両サイドからワイヤーワックスを取り付け上部にはシートワックスを乗せて腕の内面と繋げてから鋳造に出しました。
WAXではおおよその形で作って、地金になってから細かく仕上げていきます。
トップパーツは手で持って作業しにくいので、大き目の湯道を残したままカットして写真のように木万力で挟んで裏面の楕円形をヤスリで成型しました。
パーツの輪郭ができたら裏面は彫り留め、
表面は鏨でスカラベを彫ります。
HPで公開する料金表ではCADで作った場合は彫り留めは半額、スカラベ彫りは模様として原型データに入れるので無料という事を書きます。
これでマリッジタイプ2本とスカラベタイプ1本のサンプルができたのでメッキをしてHPで公開します。
HPで公開する
指輪が出来上がりました。
まずはペアのマリッジリングを公開します。
写真のようにレディースはトップパーツを少し傾けて動くデザインであることが分かるように撮影しました。
片側は外れるようになっているので指の関節が出ている人にもフィットするということも書いておきます。
実際に外した画像も作りました。
結婚指輪のオーダー基本料は断面が幅、厚み2㎜まで10万円です。
石留めなしで幅3㎜への変更で+20000円、スイベルへの変更(加工代込み)+20000円で一本当たり14万円にしました。
トップの厚みは3㎜になっていますがそこまで重量は変わらないので追加料金は足していません。
この結婚指輪の料金表の上のほうにアレンジ例としてリガード石とダイヤモンドを追加する金額も載せています。
トップの形や大きさを変えたスカラベリングもマリッジリングページ内で説明しています。
ワークスに投稿した「スカラベ/スイベル」にはこれまで説明した通り、エジプトではスカラべがどういう意味を持つ昆虫なのか等について書いてあります。
金額はトップの幅が6㎜、腕の幅が3㎜なので重量が近い腕の幅4㎜への変更で計算しました。
まとめ
マリッジページにスイベル、ワークスページにスカラベリングを公開しました。アレンジ例としてスカラベリングを作った事でトップパーツの形や大きさが変更できるイメージが伝わりやすくなったと思います。
スイベル&スカラベリングについては以上です。
次は結婚指輪の基本デザインの新型としてカレッジリングを作っていきます。
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