【 オーダーメイドの指輪を作る過程 】
ここまででサンプル①と②が完成しました。この「#011関節の出た指用リング③」ではサンプル③と④をまとめて作っていきます。
サンプル③
指の関節の出た人向け②では取り外しができるパーツでサイズを調整する方法を考えました。
ただ、この方法だとパーツの取り外しに難があることと紛失があるかもしれないのであえてデザインの一部にすることで目立たせないデザインを考えました。
②の平打ちリングは3枚の板を重ねて作っています。
この制作過程で内側からの調整だけでなく、外側から抑えて指にフィットさせる方法に気が付いてサンプル③が完成しました。
3㎜幅の腕の中心に1㎜幅の溝があり、「三日月型」の1㎜幅の板が開閉する仕組みになっています。
上から見ると左右にある丸い柱に1㎜板の溝が嵌まるように作りました。
サンプル③制作
制作手順ですが3㎜幅の甲丸リングがあったので糸鋸で半分まで溝をつけます。
糸鋸を横にして削ったり、リューターにダイヤモンドカッターやシリコンゴムで幅を調整して1㎜幅になるまで拡げます
写真がないのでわかりにくいかもしれませんが、指輪に1㎜幅の溝ができたら1㎜の板を差し込んで出来上がりのような「三日月型」にケガキます。
1㎜の板をケガキ線に沿って削ります。
板がおおよその形にできたら指輪の1㎜幅の隙間の両側に丸線で柱を立てます。
柱を溶接後にはみ出したロー材を削って1㎜の板の両端にドリルで丸線の柱がはまる穴をあけます。
あとはカチッとはまるようにやすりなどで微調整していきます。
あとは指輪の隙間の柱に板の穴の片側をひっかっけてもう片方をひっかけてカチッとなるようにカシメます。
これで1型が出来上がりました。
サンプルはペアで作るので今回は時間短縮のためにゴム型をとって銀と真鍮で1本ずつ鋳造、パーツを交換してコンビリングで作ることにしました。
原型はパーツと指輪を写真のように溶接して一本の指輪としてゴム型を依頼しました。
銀と真鍮になって上がってきた指輪を仕上げていきます。
それぞれ板を挟んで金床の上で木槌で上から叩いて正面から見た時の隙間をなくします。
出来上がりは写真のように3層のコンビリングのように見えます。
内側からはめ込むデザインと違って表面から見えてしまいますが着脱はこのほうがしやすく、固定部分が扉のように開くことで指輪とパーツが完全に分離せずに済むので心配していたパーツを紛失することもないかと思います。
中心のパーツ部分を何個か作って取り換えることで同色地金、コンビ地金、ハーフエタニティなどその日の気分に応じてデザインを変えることもできます。
ただ、地金のサンプルを作ってみるとパーツの穴部分は上から見たときに少し薄くなってしまいました。
何度も動かすことを考えるともう少し厚めにしないといけないと思います。
また、ある程度厚みがないと手をグッと握った時などパーツが外に開いてしまいます。
そのあたりのことも考えて実際の制作の場合はこちらもCADでパーツの穴とその支えになる柱の位置なども微調整したほうがよさそうです。
サンプル③まとめ
サンプル③のパーツは円弧部分の大きさを変えることで指輪をカットせずにサイズ調整をすることができるメリットもあります。
また正面から見てデザインを損なわず上から見た時もサイズ調整パーツというよりデザインの一部のように見せることができます。
サンプル④
サンプル①では既成の金具を使った指輪、サンプル②では内側のパーツが取り外しできる指輪でサンプル③遮断機のような金具付きという関節の出た指向きのでデザインを考えました。
このサンプル④ではサンプル②の改良版を作っていきます。
デザインを考える
結婚指輪のサンプルなので幅は3㎜で作ります。
②のサンプルを作ってみて装着した状態からパーツの取り外しは難しいと分かったので写真の甲丸タイプのパーツには取り外しできるポッチを作りました。
「三日月型」パーツは指輪の内側3分の1くらいの長さで作ると指に接する部分が多く、フィットすることもわかりました。
指輪の全周に凹みは必要なく、内石や刻印を入れることを考えて写真のような内側の半分は凹みのない通常の指輪にすることにします。
③のデザインも結婚指輪にいいと思いますが、②はパーツが隠れることで表側は通常の指輪と変わらないデザインで作ることができるメリットがあります。
デザイン面で③よりも②を改良した④のほうが優れているのでCADで正確に作ることにしました。
指輪の内側にキッチリ嵌ればちゃんと力を入れないと外れないので紛失の可能性も少ないと思います。
CAD原型制作
ここまでは地金で作りましたがサンプル④はCADで作っていきます。
幅は3㎜、甲丸リングで内側のパーツの凹み幅は1㎜にします。
サンプル②の甲丸では取り外しの時に爪を引っかかるポッチを作りました。
ただデザイン上はない方がスッキリするので凹みに入る1㎜板部分以外は厚み3㎜にして(片側1㎜ずつ出っ張る)側面を面一(ツライチ)にすることで指輪とパーツの隙間に爪が引っかかるようにしました。
これでサンプル②のようなでっぱりがなくても取り外ししやすくなります。
指輪とパーツができたらサンプルでサイズ直しをすることはないので指輪とパーツを一つの原型として樹脂で造形します。
樹脂造形は外注依頼なので金額が安く、ゴム型も取りやすい形を考えます。丁度、造形屋さんに行く予定があったので画像の4パターンでどれがいいかをお見積りに行きました。
データ修正
金額は変わらず、画像右が良いとのことなのでこの状態で原型を完成させます。
②で作ったサンプルと同様に内側のパーツには中心に溝を指輪の凹みにはこの溝に嵌る出っ張りを作ります。
これがあること中心がわかりやすく外れにくくなります。
CADデータを造形屋さんにメールして樹脂造形をしてもらいました。
その後、樹脂原型の持ちこみでゴム型は別の会社で取ってもらいました。
湯道の位置に関してはお任せで特に伝えなかったのですが、180度逆にして付けたほうがパーツに地金がしっかり流れると思います。
樹脂原型上がり
地金になった指輪を仕上げていきます。
今回は溝の仕上げとこの溝にパーツがカチッとはまることが大事なので磨き過ぎに注意します。
サンプル④まとめ
サンプル④も完成しました。
欠点としては内側のパーツを紛失する可能性があるのであえてシルバーや真鍮など安価な地金でストックを持っておくのもありではないかと思います。
もしくは3㎜幅の指輪ならパーツは1㎜~2㎜厚の板なので追加金額もそこまで高くなりません。
これでサンプルが4セット出来上がりました。
この中でサンプル④が最もおすすめのデザインで完成度が高いので結婚指輪ページに追加します。
次のブログ、「#012関節の出た指用リング④」では出来上がった指輪をHPで公開するまでをまとめていきます。
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