【 オーダーメイドの指輪を作る過程 】
お客様が描いた蔦(つた)の葉のイラストをベースに手彫りの結婚指輪をお作りしました。
今回は地金の指輪とデザイン画を持ち込んでハワイアン彫り専門の職人さんに彫りを依頼しました。
蔦(つた)のような植物模様を依頼するとハワイアン彫りとは言えない気がしたのでブログのタイトルは「客注タガネ彫りリング」にしています。
打合せ
お客様はツタや葉のイラストをお持ち込みでレディースは彫り、メンズは膨らんだ模様での指輪をご希望でした。
ハワイアン彫りは4種類から選べます。お店を始めた当初から用意していて、当店の結婚指輪の中で唯一、外部の彫り専門職人さんに依頼するセミオーダーになっています。
打合せの結果、メンズとレディースはペアで凸凹の対称デザインにするという所まで決まりましたが、その場で細かい模様は決まりませんでした。
CADで作る彫り風の凹み模様なら手彫りと違って追加料金もかかりません。
女性はお仕事がデザイン関係だったので、メールで2本の指輪表面の展開図を送り、模様を描いてもらって、その絵を元にCADで立体のデザイン画を制作、お見積りと一緒にお送りするということになりました。
打合せ後に早速、画像のような幅、サイズの展開図を作ってリングの模様テンプレートの書き方としてPDFにまとめてお送りしました。
見本としてどういった形になるかという参考の指輪画像も載せています。
指輪を作る
お客様のデザイン画が届いたら早速立体のデータを作っていきます。
レディースの溝は彫り風のV字溝です。お揃い感を出すためにメンズは反転させた逆V字型の膨らみ模様を表面にくっ付けています。
ハワイアン彫りようのような指輪表面にビッシリの彫りではなく、余白の多い和彫りがイメージに近いかもしれません。
CADでは0.3㎜の隙間が必要なため、お客様の描いた細かい葉脈は表現できず、簡略化させました。
メールでは立体データも添付して、PCで見てもらいました。(※スマホだと専用アプリを入れないと見られない。)
お客様には
①模様の向きを変える
②平打ちを甲丸にする
といったアレンジ例もPDFにまとめてお送りしました。
その後、ご返信があり、やはり両方の指輪をオリジナルの模様で手彫りハワイアン彫りにしたいというご返信がありました。
「描いたデザイン画をもとにスクロール&リーフのような感じ」という事で、4種類から選ぶセミオーダーではなく、
1、お客様のデザイン画通りの模様を彫れる場合
2、スクロール&リーフの「花」を「ツタの葉」に代える場合
で彫り職人さんに見積もりを取ることにしました。
これまでハワイアン彫りはご注文がなく、最初の結婚指輪サンプルを作ってもらってから5年ほど経っていました。
職人さんは個人でやっていてデザイン画持ち込みはできない可能性や金額が変わる可能性もあります。
メンズとのペア感は出さなくて良くなったので、3㎜幅の表面にハワイアン風に実際に線を引いて試してみて、お客様には加工が不可ならCADで原型を作って、溝を鏨でなぞる手法で自分で対応しますとお伝えしました。
葉脈のような細かい彫りはCADではできないので、地金になってから入れるということでご説明しました。
その後、職人さんを訪ねてオリジナルデザイン画でも少ない追加料金で受けてもらえることになりました。
1、地金の指輪にお客様のデザイン画通りの模様を彫れる場合
2、地金の指輪にスクロール&リーフの「花」を「ツタの葉」に代える場合
3、CADと樹脂原型、地金鋳造後に溝を鏨でなぞる手法の場合
の金額、納期、注意点をPDFまとめてメールをして、1の地金の指輪にお客様のデザイン画通りの模様を彫る方法に決まりました。
模様を彫ってもらう地金の指輪はこちらで用意します。
当店では指輪の制作方法は
1、鍛造
2、WAX原型/鋳造
3、シルバー原型/鋳造
4、CAD・樹脂原型/鋳造
の4つがあります。
制作方法は3のシルバー原型は作らず、真鍮で作る試着リングをそのまま原型にしてゴム型を取って、貴金属の指輪を仕上げて職人さんに彫りを依頼するということにしました。
ご納品までの流れ、特典、金額、タガネ彫りで追加納期を1週間のご了解をいただいて正式なご注文となりました。
当店ではサイズも納得して決めていただきたいので、ご注文の指輪の幅と形状で試着リングという指輪を真鍮で作って3日から1週間ほど試していただいています。これは店頭でサイズを測っても朝は指がむくむなど時間帯によってフィット感が変わるからです。
今回の場合は試着リングと同じ形で違和感もないので、納期が一番早いので試着リングをそのまま原型とします。
試着リングは鍛造技法が一番早く、コストも安いので真鍮棒をローラーで伸ばして作っています。
今回の試着後の最終サイズはどちらも1号小さめとなりました。
戻ってきた試着リングのサイズを直して、画像のように指輪を上下を繋げて、ゴム型を取り、WAXパターンを取り出して、
金とプラチナで鋳造、全体を仕上げます。
原型から型取りをして地金になる段階で多少は縮むのでサイズは仕上げて丁度になります。
こちらで試着リングのサイズはせずに鋳造屋さんにWAXパターンの段階でサイズ調整をお願いしても良いかもしれません。
仕上げた状態の指輪を持って彫り職人さんに依頼しに行きます。
デザイン画持ち込みでの彫りはCADと違って完成品がどうなるかをお客様に見せることができません。
お客様の書いた絵を職人さんが彫りやすいようにデザイン画を修正するだけでなく、希望がきちんと伝わるように詳細な加工依頼書も作りました。この加工依頼書はお客様にも見てもらい、不備や抜けがないかもチェックをしてもらっています。
彫りの作業ではまれに彫刻台のリングホルダーに固定するとサイズが伸びることもあるそうですが、今回は問題ありませんでした。
彫り職人さんから指輪を受け取ったら今度はレーザー刻印、内石留めを依頼しに行きます。
レーザー刻印を入れる前に内面についた小傷取りもお願いします。
指輪が上がってきたら全体を仕上げて完成です。
ご納品の時にはデザイン画を拡大プリントして、お客様自身で指輪と比べながらスクロールの数なども確認してもらい、イメージ通りできていたという事でとても喜んでいただけました。
ご納品後にフォトアルバムもお送りしました。
HPで公開する
蔦(つた)はツタ科の植物の総称で、蔓(つる)の部分から周囲に「伝う」ように伸びるのでこの名前が付けられたと言われています。
名前が紛らわしいですが、蔦(つた/IVY)は植物の品種、蔓(つる/VINE)は ひも状の茎部分を指すということのようです。
指輪の名前は最初はハンドエングレービングで作品集のページに投稿しました。その後、蔦(つた)は英語ではIVY(アイビー)と呼ばれるので「Ivy / engraving(アイビー / エングレービング)」にしました。
まとめ
オリジナル模様の彫り依頼は始めてだったので、職人さんから受け取る時、お客様にご納品するときも緊張しました。
HPに載せていなかったオリジナル模様彫りも事例ができたことで今後はお客様に説明する際、職人さんに依頼する際もスムーズに対応できそうです。
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