先日、受注した結婚指輪をご納品しました。
お客様からお名前や金額などは伏せるということでご了解がいただけたので接客をする職人さん向けに詳しい受注から納品までの流れを説明していきます。
そのお店がどんな指輪を作れるのかはホームページなど見ればわかりますがどのように接客して受注しているのかはどのお店も詳しくは書きません。
この職人向けブログは自分が知りたかったことを書くことにしています。
ある程度ジュエリー加工ができる人の場合は指輪の作り方よりもどうやってそのデザインに決まったのか、接客方法などに興味があると思うのでそちらに焦点を当ててオーダーメイドの一例としてまとめてみました。
1、メール対応、ご来店打ち合わせ
2、両手パーツサンプル、CADデータ確認
3、樹脂原型確認、サイズ確認リングお渡し
4、真鍮リング確認
5、お渡し
とご来店回数は全部で5回でした。
書いてみたら長くなったのでブログでは
㊵フェデギメルリング1
受付から4回目の真鍮リング確認まで
㊶フェデギメルリング2
プラチナで制作からご納品まで
㊷フェデギメルリング3
ご納品後の反省と改善点
と全部で3回に分けました。
オーダーの流れとしては
1、メール対応、ご来店打ち合わせ
(商談セットの用意、見本画像印刷)
2、両手パーツサンプル、CADデータ確認
(両手パーツ・ギメルデータ制作)
3、樹脂原型確認、サイズ確認リングお渡し
(CADデータ修正・樹脂原型造形
・サイズ確認リング制作)
4、真鍮試作リング確認
(真鍮試作リング制作)
5、お渡し
(プラチナ結婚指輪制作・ディスプレイ制作)
タイトルは全5回のご来店時の内容で()内はその時までにこちらで終わらせておく作業となっています。
メール対応
今回のオーダーメイドでの最初のメールは内容は画像のような3本が1つになる指輪のURLが添付されていてプラチナで作った場合の金額と納期のお問い合わせでした
そこでお見積りと納期を書いてPDFにしてその日にメールを送り、何度かご質問などに回答してからご来店が決まりました。
ご来店されてから聞いたのですが、「クラダリング」「ギメルリング」というキーワードでNET検索をしていて当店のホームページを見つけたとのこと。
お客様はそのキーワードで見つけた指輪のオーダーができるお店を調べて同じ内容のメールを送ったそうです。
ちなみに「指輪」「リング」などはビックワードと呼ばれて上位表示が難しいライバルの多い検索ワードです。一方、特定の「○○リング」などはスモールワードと呼ばれて検索したときに当たりやすく上位表示させるなら狙い目と言われています。
「指輪 オーダー」などではまだまだ検索表示されない当店ですが、スモールワードの「クラダリング」「ギメルリング」で記事を公開していたことでお客様の候補に入ることができました。
ただ、送っていただいた画像の指輪は当店でも作ったことはありません。
まずはNETで似た画像を集めて作れそうか考えます。
教えていただいたURLだけでなく似た画像で別角度の画像も見て作れそうか、作るなら地金、WAX、CADのどれで作るのか考えて、3つを重ねる部分さえクリアできれば問題なさそうなので制作できますと回答しました。
自分では難しい場合などは外部の職人に連絡をして納期や加工代などを聞いてお客様に回答をしたりもします。
ご来店日時が決まったらメールで送った画像付きのPDFを印刷、それから似た画像などもまとめて印刷しておきます。その紙の脇には決めることも書いておきます。
ご来店打ち合わせ
ご来店されてから打ち合わせをしていきます。
今回の指輪はフェデリングと言って2~3世紀のローマで流行った婚約指輪でイタリア語で信頼や忠実を意味するそうです。
デザインはおおよそ決まっているのでサンプルを使って素材、幅など決められる部分の打ち合わせをしていきます。
どんなものを使っているかはオーダー結婚指輪を作る職人用接客で使う道具を書いてあります。
デザインを打ち合わせしていくうちにメールの内容からいくつか変更になりました。
・3本重ねではなく3連ギメル
・ハート部分に誕生石を埋め込む
メールの時より少し難易度が上がりました。
通常は決まった内容でCAD原型データの画像をデザイン画としてお送りするのですが、今回はイメージの画像があります。
3つのパーツがきちんと重なるかの確認込みでまずは両手部分のサンプルだけ作り、気に入ってもらえたら制作ということにしました。
通常のオーダーメイドではデザイン画まで無料でサンプル制作は受注をしてからです。
このフェデリングはいつか時間があれば作ってみようと思っていたデザインで受注にならなければWORKSで使えそうなので、まずはサンプルを作ってみることにしました。
打合せ時に話した内容で石留めの追加やギメルに変更もあるので変更後のお見積りは翌日お送りしました。
メール対応、最初のご来店打ち合わせはここまでです。
2回目のご来店までに両手パーツ制作・ギメルデータを作っておきます。
2、両手パーツサンプル、
CADデータ確認、
(両手パーツ・CADデータ制作)
2回目のご来店ではお客様に腕パーツサンプル、ギメルデータの確認をしていただきます。
この2つを確認でOKなら受注となります。
2回目のご来店までに①両手パーツ制作、②CADデータまで終わらせておきます。
両手パーツとCADデータの制作
打合せの翌日に3本ギメル部分のCADデータ、翌々日に両手パーツを作りました。
3連ギメルのCADデータ
ギメルリングのCADデータを作ります。
お客様のご希望デザインに変更があったのでそれを参考に作っていきます。
今まで作ったデザインは全体を捻る3連だったので指輪の半分で捻りが完結する形を考えます。
何回か試行錯誤して2本の指輪を作りました。
見た目が分かりやすいようにデータ上では3色にしています。
3連にすると厚みが0.6㎜位の薄い部分が出てきます。
強度を保つために幅の広くしました。
心配な3本がきちんと外れて重なるのかは地金になってから確認します。
両手パーツ部分
印刷した見本を参考に両手パーツ部分をシルバーの板から作ります。
板の厚みは1.2㎜で親指の幅は1㎜位になるように削りました。
出来上がりが組んでみると幅7.5㎜程になりました。
ご希望は5㎜前後ですがそうすると指の幅が0.7㎜位と細くなり強度が不安です。
地金やWAXで作るのは難しそうなので作ったシルバーの両手パーツを見てもらい、そのデザインをCADで小さく作り直すことにしました。
ちなみに具象物(天使やスカル、動物の顔など)は現在のスキルではあまり上手くできないのでCADの業者さんにお見積りを依頼してみると「普通のリングだと製作可能ですが、こちらのデザインだと立体的な物になりますのでキャドで表現するのが難しいと思います。」という制作不可の返信が来ました。
なので、自分でCADでカクカクしたデータを作ってWAXパターンか地金の段階で削って丸くすることで対応することにしました。
画像が出来上がりデータです。
CADの手順は省いてしまいますが、無理をして板を丸めるのではなく、ブロックを重ねて組み合わせる作り方で最後に角を少し丸くしています。
これでお客様には腕部分のSVパーツを見てもらいCADのデータの角は仕上げで取ることを伝えます。
両手パーツの付いた3連ギメルがきちんと重なって外れるか、手のパーツがカチッとはまるか不安な部分は地金で一度作って解決することにしました。
これで2回目のご来店の準備ができました。
2回目のご来店
2回目のお客様がサンプル確認でご来店されました。
両手のSVサンプルと印刷しておいたCADデータのイラストを見てもらい打合せをしていきます。
薬指に両店のパーツのサンプルを乗せて出来上がりをイメージしてもらいます。
打合せの結果、両店のパーツはもう少し小さくして、指輪の幅も3㎜の細いタイプに変更
その他、刻印の位置や向き、両手パーツの厚みと幅の説明、袖のデザインをどうするかをお客様と話し合いました。
袖部分のご希望デザインはその場で紙に書いてもらいました。
今回は上半分の捻りがあり、下半分でサイズ直しができますが、刻印を入れる場所をどうするかという問題があります。
真ん中の刻印が入る指輪だけ横の部分でサイズ直しをすれば問題ないので指輪の真下に入れてしまいます。
ハートの大きさと厚みも石が留まる厚みが必要なので説明します。
袖のデザインもCADで作れるのでどのデザインが良いか決めてしまいます。
それから3連のギメルリングはホームページで公開しているこの3連ギメルのほうが指輪の厚みを確保できます。
こちらなら幅が3㎜と細くなっても強度が保てそうなのでオリジナルリングの3連と同じタイプのギメルに変更させてもらうことにしました。
デザインもおおよそ決まったので次の3回目のご来店までにメールでCADデータの修正と確認をしてもらい、OKならご来店までに樹脂原型を造形して用意、サイズ確認用の試着リングも併せて用意しておきます。
3、樹脂原型確認、
サイズ確認リングお渡し
(CADデータ修正、樹脂原型造形、
サイズ確認リング制作)
3回目のご来店では樹脂原型パーツを見てもらいます。この時にサイズ確認用のリングをお渡しして2週間の試着期間がスタート、その間に真鍮で出来上がりの見本を作ります。
作業は①CADデータ修正、樹脂原型造形、②サイズ確認リング制作まで終わらせます。
CADデータ修正、樹脂原型造形
まず造形前にCADデータをメールで送り、デザインの確認をお願いします。
打合せでデザインの細かい部分の修正案が出ました。
①指輪の幅と形、②袖のデザインの2点が大きく変更になりました。
①指輪の幅と形
幅はオリジナルリングと同じ4.5㎜から3㎜に変更になりました。
形状も平打ちではなく甲丸で制作することになりました。
ただ、CADデータでは両手パーツとのすり合わせで削ることを考えて平打ちで作ります。
②袖のデザイン
袖のデザインはWEBサイトからダウンロードした画像を見ながら検討されました。
プレーン、フリルなどある中でお二人のイニシャルMとYを袖に見立てたデザインで制作することになりました。
デザインが決まったらCADデータを作りなおします。
指輪の幅は仕上げで減ることを考えて1本あたり0.2㎜広くした3.6㎜で造形には出します。
お客様には出来上がりの3.0㎜の画像で見本を作ります。
添付が打ち合わせで決まった内容をまとめたPDFです。
指輪は地金の色を3色に分けてつなぎ目がわかるようにします。
シルバーのサンプルを見てもらっているのでデータの角はあとで丸くなるということも書いておきました。
メールを送るとお客様からご返信がありました。
袖に関しては大幅なデザイン変更をご希望だったのでデータを作り直します。
文字だけだと伝わりにくいので画像も添付したPDFで不安に思われている部分も予想して丁寧な回答を心がけます。
何度かやりとりをして画像の出来上がりイメージでお客様のOKが出たので樹脂原型出力を造形屋さんに依頼します。
今回は両手のパーツをハートでつないで縦横12㎜、厚みが4㎜に収めて造形代を安くしました。
指輪も一度で3連が造形できたほうがサイズ調整も手間がかからないので合体させて造形依頼をしました。
試着リングを作る
メールでやり取りをしている間にサイズ確認リングを作ります。これは朝はむくんだりするので本番の指輪を作る前に正確なサイズを測るためです。
今回は納期が短いので原型と同じ形の試作リングではなく、真鍮の甲丸リングをメッキしてサイズ確認目的の試着リングにします。
鋳造だと時間がかかるので鍛造技法で板を丸めて作ってから御徒町に行ってその日にロジウムメッキをしてもらい、受け取ってきます。
ちなみに当初の予定では次回のご来店は樹脂原型確認は飛ばして真鍮リングでのご確認でした。
というのも画像のような樹脂原型だけの状態で見てもらっても出来上がりがわかりにくいので地金で組み合わせた状態での確認のほうがいいかなと思っていました。
シルバーの両手パーツや印台の3連ギメルリングリングも見てもらっているのでメールで寸法の書いたCADデータを見てもらえればおおよその形はイメージできる事と試着用リングは宅配にすればご来店回数も減らすことができます。
今回はメールのやり取りをしていて
お客様から
打ち合わせでのご来店が増えることは気にならない、
やはり両手のパーツだけでも確認したいということで
樹脂原型の確認でご来店していただくことになりました。
次回ご来店時に地金で試作リングを確認、
宅配で試着リングを発送を変更して
樹脂原型確認、その時に試着リングと合わせて
サイズ確認期間スタート、
2週間後に地金の試作リング確認としました。
3回目のご来店
ご来店していただいて樹脂原型と試着リングを確認していただきます。
ギメルリングも両手部分のパーツも組み合わさった状態ではないのですがなんとなく出来上がりはイメージできるかと思います。
袖の模様は手彫りをご希望でしたが、WAXパターンで模様は埋めることができるのでCADの模様で見てもらうことにして造形しておきました。
デザインがでは大きく見えていましたが現物は画像のように小さく、手彫りにせずこのままでOKとのこと。
お客様のOKが出たのでサイズ確認用のリングをお渡しして次回の4回目のご来店までに真鍮の試作リングを作っておきます。
4、真鍮試作リング確認
(真鍮試作リング制作)
樹脂原型の確認までOKが出たので4回目のご来店までに真鍮で完成見本を作ります。
真鍮試作リング制作
お客様の試着期間中に真鍮でフェデギメルリングを作ってみます。完成した品物は後でお客様に渡します。
今回はプラチナ(銀色)でのご納品なのでサンプルは真鍮(金)という色で作っていきます。
まずはギメルリングを作っていきます。
ブログのオリジナルリングで何度か説明しているので細かくは省きますが、、、
樹脂原型のゴム型から取ったWAXパターンを真鍮で鋳造してもらいます。
まずは指輪と腕のパーツを分割して、
1本の平打ちリングと両手パーツが重なる所まで終わらせて、
平打ちリングをやすりで削って甲丸にします。
完成したら両手とハートパーツと組み合わせます。
リングのカーブに沿うようにロー付けする面が多くなるようにヤットコで曲げていきます。
フェデパーツが付いた状態で造形も考えたのですが、
・指輪にしたときにカチッとはまらない
・隙間が磨けない
・構造上、鋳造だけでは強度が心配
という理由で別で鋳造してから溶接にしました。
さっと仕上げてから腕パーツを溶接しましたがここで問題が発生しました。
左側の指輪は普通のギメルと違い両手のパーツが引っかかって上手く1本になりません。
引っかかった手を開いてヤットコで曲げて何とか1本にまとめましたが今度は外すことができません。
これはCADデータ制作の時にひょっとして起こるかもしれないと心配していたことでもありました。
そこで指輪を180度反転させて捻り部分が真下にくるようにして腕のパーツを溶接してみました。
こちらは問題なく組んで、外すことができたのでお客様にはご来店時にこの説明をしてデザイン変更の了承をお願いします。
4回目のご来店
真鍮の見本リングを見てもらいます。
デザインはイメージ通りだったようで修正なしでこのままプラチナでの制作のOKが出ました。
指輪の外し方のコツなどもお伝えして捻り部分が指輪の真下になる変更があったのでサイズ直しは指輪の横部分をカットして行うことなどご納品時のお支払い方法などを打ち合わせしました。
ここまで作った感想として、小さな腕と手のパーツをここまで精巧に作るのは手作りの技法では難しく、逆に腕の部分とハートを組み合わせるところは組んだ状態で振ってもばらけず、ボタンのようにカチッとハマるようにヤットコで微調整をしたのでCADだけでは難しかったです。
このデザインを作るなら手作りとCADの両方の技術が必要だと思いました。
真鍮サンプルが完成してお客様にも納得していただけたので作りに関する不安はなくなり一安心、納期も確定です。
次の5回目のご来店でご納品となります。
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