オリジナルリング①~④で作った指輪を別デザインに変更、差し替えをしたのでその過程をまとめました。
1、デザイン変更と原型データ制作
2、指輪の制作と加工について
3、ホームページの修正
の順番に説明していきます。
1、デザイン変更と原型データ制作
写真は先日ご納品したフェデギメルリングです。
ギメルリング部分は指輪の半分を捻ることで反対側から見ると3本がストレートになっています。
フェデパーツをつけない3連ギメルリングならバランスを崩さずサイズ直しが可能です。
この指輪の幅は1本1㎜で全体で3㎜幅で作ってあります。
一方、オリジナルリングで作った3連ギメルは全体で捻るのでサイズ直し不可で幅は4.5㎜と幅広のデザインです。
3連は見た目のインパクトがあり、一つの原型でサイズ直しが可能なら画像の2連ギメルと同じように追加料金なしの価格でオリジナルリングに加えたいと思い、作り直すことにしました。
画像はCADでの原型制作風景です。
前回作ったオリジナルリングの捻り部分の長さを印台の正面に合わせて半分ほどにして作り直してみました。
まずは一つ目の指輪ができました。
このデータを分割、再結合させてもう一つの対になるデザインを作ります。
こちらが出来上がりです。
表と裏から見ると対称的なデザインになっているのもポイントです。
この指輪データを樹脂造形用に作り変えます。
3つに分けるとこのようになっています。
画像は造形依頼前の画像です。
3本の指輪にそれぞれ鋳造で地金が流れる湯道を付けています。
データを完成させて樹脂造形を依頼します。
2、指輪の制作と加工について
樹脂造形から鋳造作業を経てシルバーと真鍮の指輪になって上がってきました。
後でデザインを追加するかもしれないので少し多めに鋳造しておきました。
デザインを考えて制作
オリジナルリングは24本作っています。
2連ギメルは(左から)
・そのままの形状のフラット、
・角を丸くしたラウンド、
・ヤスリでカット面を付けたラフ
の3種類があります。
新しく作る3本ギメルシグネットはそれだけでインパクトがあるので形は全体を捻る3連ギメルと同じようにフラットのみでラウンドとラフは作りません。
今回はそれぞれ2型が対になるように
①金・銀の単色で2本、
②金・銀の2色で交互になるデザインで2本、
③3色を1本ずつで2本
合計6本を作ります。
③のサンプルを作る
まず3色の③を作ります。
加工作業はオリジナルリング3と4と同じです。
3本のリングを分割して組み合わせ順に並び替えます。
3本の真ん中の指輪の真下を切って残りの2本を通して切断面をロー付けします。
動かないように接着材で3本を固定してからヤスリで全体を成形します。
上下が真鍮タイプの片側1本のみピンクゴールドメッキに出します。
画像は残り2本がメッキされないようにマスキングをした状態です。
これでメッキ出しすれば完成です。
①②のサンプルを作る
残りの4本も同じように仕上げます。
2連と5連を作る
出来上がったきた地金のリングを見ていて二つの原型を組み合わせれば、2連と5連が作れると気が付いたので作ってみました。
まず1本ずつに分解して、
組み合わせてロー付けします。
これで芯金に入れてサイズ出しをして隙間に接着剤を入れて固定します。
あとはヤスリで全体を成型してスポンジやすりを使って艶消しにします。
これで3連以外の追加サンプルができました。
3連ギメルリングの加工に関して
前回のオリジナルリングと加工の工程はほぼ同じです。
ただ、今回は予想外のトラブルなどがあったのでその対策や改善方法を書きたいと思います。
普段は樹脂原型(画面中央灰色)を造形する会社とゴム型取りと鋳造の会社は別で依頼しています。
ゴム型と鋳造の会社(キャスト屋さん)も扱っている地金や鋳造頻度の違いで客注のプラチナや金を依頼する会社とシルバー、真鍮を依頼する会社で分けています。
樹脂造形はどちらのキャスト屋さんでも依頼できますが、
・早い、安い、上手い
・実際に造形の作業をする人が
湯道の場所などの相談に乗ってくれる
という理由で別会社に頼んでいます。
今回、そこで作った樹脂原型を持ち込んだキャスト屋さんから電話があり、ゴム型を取るときに樹脂原型を壊してしまい、再造形をするのでCADデータを送ってほしいと言われました。
画像のデータをメールで送った後に鋳造上がりの連絡があり真鍮とシルバーになった指輪を受け取りに行きました。
反省①原型を確認してから鋳造依頼をする
指輪を持ち帰って加工作業をしようと確認すると幅1㎜の板の上面に深めのラインが入っていました。
送ったデータにも持ち込んだ樹脂原型にもなかったので再造形になった樹脂原型を確認するとこちらにもラインが入っていました。
これが今回の反省ですが、原型を確認してからゴム型取りに出さないと失敗した品物を量産することになります。
今回作った指輪は一番細い部分の幅が1㎜しかありません。
この深めのラインを消すために磨きで減らすと正面から見た時のバランスが悪くなります。
ということで反省点ですが、原型を確認してからゴム型を取るという当たり前の確認が必要でした。
このキャスト屋さんでの樹脂造形も初めてだったので一度、原型を確認させてもらうべきでした。
反省②試しに1本を確認してから残りを鋳造依頼をする
数が多い場合はキャストは試しにー本鋳造してみる。
これも当たり前ですが忘れていました。
今回はほとんどの指輪の赤丸部分が引けて凹んでいます。
画像の光っている部分は凹みを真鍮ローで埋めて磨いたので光っています。
この凹みは指輪を3分割するまで気が付きませんでした。
この手直しを10か所以上しているのでまず1本作って確認しておくべきでした。
この凹みに関しては樹脂原型のせいではなく、鋳造時の地金の「引け」です。
この「引け」は鋳造時に地金が細い部分を通ってもしっかり流れるようにCADデータの状態でリング同士をつなぐ湯道を画像の位置につけることで避けられたと思います。
反省③WAXパターンで確認する
画像の指輪は正面に欠けがあり小さくても目立ちます。
WAXパターンで確認するとほとんどが欠けていました。
原型は問題なかったのでおそらくゴム型かWAXパターンを作る作業で欠けています。
今回は凹みがひどいものや捻りの部分が埋まっている指輪がいくつかあり、WAXパターンで欠けを直してから再鋳造をお願いしました。
こういったことは無料で対応してもらえます。
ちなみに今回、地金と一緒に頼んでいたWAXパターンがこちらです。
WAXパターンも何度もお願いしていますが、ここまでバリだらけになっている状態で渡されたのは初めてでした。
途中で不透明なVLTゴムからどこを切っているか見ることができる透明な液ゴムに変更したいという連絡もあったのでよほどゴム切りが難かしい形だったか、新しい人が担当になったのかなと思いました。
ここで反省ですが、まずWAXパターンをもらって確認してから鋳造に出すようにしていれば、全部の地金ものを修正する必要はなかったと思います。
①~③の反省のまとめとしては
同じ形で数が多い場合は
①樹脂原型を確認
②WAXパターンを1本依頼
③一本だけ地金で鋳造、完成させる
④WAXパターンをまとめて依頼、傷などを確認
⑤確認してWAXパターンをまとめて鋳造依頼
という手順を踏むことで時間はかかりますが、余計な失敗や修正作業が減らせたと思います。
このブログを読む人がまとめてサンプルを作る場合に原型データ制作から鋳造までの工程で同じ失敗をしないように書いてみました。
キャストに関しては(最近はほとんどありませんが)地金の「縮み」という問題もあります。
画像の指輪はシルバー原型から焼きゴムを取ってもらい、真鍮で鋳造すると明らかに小さくなっていました。
ここまでの「縮み」は珍しいですが、ハーフエタニティなどの石が並ぶタイプだとやり直しになるので1つの原型で作る数が多い場合はまずは1本鋳造して確認してから残りを進めるのが安全ではないかと思います。
再鋳造の指輪の制作
再鋳造を依頼した指輪が上がってきました。
受付でキャスト職人さんからの伝言があり、今回の形はゴム型取りが難しく原型でリング間の隙間をもっと空けて欲しかったとの事。WAXパターンもうまく取れていなかったので難しい依頼をしていたようです。
CADデータと樹脂造形だけでなくゴム型と鋳造のことまで考えて原型を作るべきでした。
今回のような依頼をする場合はCADデータを樹脂造形屋さんに送るだけでなく鋳造屋さんに「職人さんに聞いていただきたいのですが、この形はゴム型を切れますか?地金の引け(凹み)がないようにリング同士をつなぐ湯道の位置は画像の位置でいいでしょうか?湯道の太さなど指定していただければ修正した原型をお持ち込みします。」というようなメールを送って確認をしておけば失敗がありませんでした。
と、いうのが今回の反省です。
再鋳造品が上がってきたので2、3、5連以外のデザインを考えます。
今回の作った3連リング2型は分解すると4つのパーツでできています。
組み合わせると2連から5連までで6パターンのデザインを作ることができます。
色をなくすとわかりやすいのですが、4連と5連の片側はまだ作っていません。
まずはこの2つを作ることにしました。繋ぎのパーツの位置で6連、7連も可能ですが、外して組むのも一苦労でご注文はないと思うので5連までにします。
まだ作っていなかった2連のコンビリングと4連リングを作ってみました。
これも他にどういうパターンができるか考えます。
まずは無色のイラストを用意して、
着色して2色と3色のパターンを考えました。
指輪を中心で分割すればパターンはさらに増えますが、デザインがうるさくなりそうです。
ひとまず、シンプルなものだけ作ってサンプル制作はここまでです。
もう一度作り直すなら
5連までのデザインを考える段階でより制作コストを抑えた効率の良い方法も考えたのでまとめます。
先ほども書きましたが使うパーツは4つです。
これをリング間の隙間がゴム型を切りやすい2㎜にします。
高さは14ミリですが、リング2本の造形とゴム型よりは金額は安くなると思います。
サイズ直しのことも考えて指輪の真下ではなく、捻りと正面部分と対角線上になる斜めの場所に湯道を付けます。
指輪を上から見ると湯道はこの位置です。
4本のリング間の隙間が1㎜も考えましたが、今回のことでゴム切りが難しいことがわかりました。
これを造形屋さんと鋳造屋さん数社に先ほど書いたような加工の確認を取ります。
おそらくリング同士の湯道を太くする、湯道の数を増やすほうがいいなどのアドバイスがあると思います。
OKなら造形依頼、樹脂原型確認、ゴム型、WAXと地金で1本依頼、地金で一本完成させて、地金の引けや欠けがないことを確認してから残りをまとめて注文にすれば今回のような失敗はないと思います。
3、ホームページの修正
ピンクゴールドのメッキ品も出来上がったので撮影、画像修正、CADデータを使ってイラストも用意してホームページで公開します。
使う写真とイラストが用意できたら修正するオリジナルリングのページの文章も考えます。
今回作った指輪は幅2㎜から5㎜まであり、サイズ直しも可能です。
前回作ったオリジナルリングは3㎜幅の1型が13万円で残りのデザインは追加料金が必要な価格設定にしていました。
このデザインはサイズ直しができますが、原型が1型で3㎜を2㎜に削って作れても4㎜、5㎜をご希望の場合は通常のオーダーになります。
デザインの完成度などを考えても今回のほうがいいので思い切って前回作ったオリジナルリングは削除して今回のものと差し替えることにしました。
この2㎜幅を通常のオーダーで作った場合は
結婚指輪基本料 10万円
ギメル変更 3万円
厚み1㎜追加(印台)2万円
合計15万円です。
新しいオリジナルリングの価格は刻印とサイズ直し、新品仕上げのアフターフォローは無い分、2万円安くして
2㎜幅 13万円
3㎜幅 18万円
4㎜幅 23万円
5㎜幅 28万円
幅1㎜、指輪1本追加で5万円プラスになる分かりやすい価格設定にすることにしました。
この価格設定の利点は購入後に1本5万円の別リングと交換することで幅を広くしたり細くしたりすることができる点です。
あとでもっと太くしておけばよかったという場合や単色で注文した後でコンビリングに変更したい場合なども対応することができます。
ここまで決まったらその利点を書いた文章や画像を投稿してオリジナルリングのページを修正します。
オリジナルリングのページを修正したら
1、リンクボタンの下の以前作ったオリジナルリングの画像の下に3連の画像を追加
2、目次から移動する
その他の指輪も画像と文章の変更
3、インスタグラムとピンタレストに投稿
を行います。
これは前回と同じです。
まとめ
前回作ったギメルシグネットリングよりも完成度が高い改良版が完成しました。
捻り部分が短くなったことで正面から見たときに切り替えがわかりやすく何より全体のバランスを崩さずにサイズ直しができるという利点が加わりました。
1㎜幅ごとにサイズの変更もできます。
お店のオープン当初はオーダーメイド専門店ならどんなことができるかのサンプルがあればそこまで個性的なデザインは不要だと思っていました。
ただ、インスタグラムを始めて他店の指輪と画像のみで比較された場合にクリックしたくなるような個性的な指輪、お店の特徴となる指輪は必要だと思い、オリジナルリングと専用ページを作りました。
ホームページ制作当初は思いつかなかった宝石や彫り、模様などは無しでも特徴のある指輪が
1、結婚指輪のギメルリング
2、ギメルとシグネットを組み合わせた指輪
3、ご依頼の上半分捻りの3連フェデギメルリング
4、上半分捻りの2連~5連のギメルシグネット
という流れで完成しました。
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