オリジナルリングとエタニティリングの制作が終わりました。
Pt900とK18の指輪が1本29000(税別)の「スリム リング」という価格の安いオーダーコースを考えたので
1、プランの企画
2、サンプル制作
3、指輪の名前の決め方
4、受注前の確認、準備
5、まとめ
の5つの流れに分けて説明していきます。
1、プランの企画
お客様の立場になって考えると「指輪のオーダーメイド」は既製品に比べて金額が高く、打合せが面倒なイメージがあります。
TOPページでは最短納期は2週間で最低2回のご来店でお渡し可能という内容を書いていますが、価格に関してはデザインの自由度を上げるために制作に時間やコストがかかる方法も入れてあるので指輪は一番安くて幅2㎜のものが10万円からです。
ネットで「指輪 オーダー」と入力したときにグーグル検索では「関連検索ワード」で(キーワード入力補助機能で)画像のようなワードが表示されました。
「指輪 オーダー」と一緒に「安い」というワードも検索されるようなのでペアリングや誕生日プレゼントとしてシンプルな形でも1本10万円というのは高いと感じるお客様もいると思います。
なので、お店を知ってもらうキッカケとしてリーズナブルなコースを考えることにしました。
手作り指輪などはペアで10万円などもめずらしくないので
・1本あたり5万円以下
・幅が細めで地金重量を軽く
・手作りで作れるシンプルデザイン
・通常のオーダーのようなアフターフォローは無し
この内容でどんなコースを作るか考えます。
通常のオーダーメイドが指輪の形などこだわりたい方向けだとするならこのコースは
・シンプル派
・価格重視
・指輪にそこまでこだわらない
・仕事柄つける機会が少ない
・結婚指輪を作り終わった
というお客様を想定します。
あとは男性が女性にプレゼントする指輪の場合、デザイン、ブランドなどサプライズだと好みではない場合があります。
このコースなら5万円以下でお店に来てからデザインが決められるので記念日のプレゼントに最適だと思うのでその説明も後でこのコースのページでまとめます。
最初に考えたプランは
・幅、厚み1.8㎜の平打ち、甲丸
・素材はPt900とK18イエローのみ、
・価格49000円(税別)
・刻印は手打ちで
・制作方法は鍛造のみ
です。
このプランなら鋳造や型を取る必要がないので納期が早く、金額も抑えることができます。
材料も金とプラチナの角線をもっていればいいので在庫も少なくて済みます。
2、サンプル制作
まずは真鍮の角棒を使ってサンプルを作ります。
1.8㎜でレディース12号、メンズ16号で①平打ち、②甲丸、③三角腕、④メビウス(捻りきつめと緩め)、⑤甲丸槌目の5種類を作ります。
制作過程は簡単にまとめると2㎜の角棒をローラーで1.8㎜に伸ばして12号と16号になる長さでカットします。
カットして角棒をバーナーでなまして180度捻りのメビウス(捻りきつめと緩め)は棒の状態で捻っておきます。
指輪の断面同士を合わせて隙間に糸鋸を入れて口をぴったりに合わせます。
断面をロー付けして、
芯金に入れてサイズを出します。
あとはヤスリで成形してテクスチャーをつけて磨いて完成しました。
ただ、サンプルを作ってみると
マリッジで作った幅2㎜とほぼ差がなく、
これならさらに幅を細くして
価格を安くしたほうが
お客様にも響くかもしれないと思いました。
そこで幅、厚みを1.5㎜に変更して作り直しました。
作った1.8㎜の指輪は「1.5㎜→1.8㎜に変更はプラス¥20000」というオプションの価格にしてベース金額は29000円に下げることにしました。
写真が作り直してロジウムとK18でメッキしたサンプルです。
甲丸と平打ちリングにテクスチャーはつや消し、槌目 大と小、ストライプの4種類、ツイストも捻り方を変えた4種類の合計8種類で作り直しました。
女性向けのファッションリングとしてなら幅、厚みが1.5㎜はよく見かけるサイズです。
1.0㎜で低価格も考えましたが、幅が狭すぎると捻りやテクスチャーが分かりにくく、変形する可能性や今後のサイズ直しのことも考えて断面は1.5㎜厚を最低のラインにすることにしました。
ペアでつけるなら男性にはオプションの1.8㎜への変更をお勧めする予定です。
3、指輪の名前の決め方
結婚指輪と扱いを分けて固定ページを作るので指輪の名前を考えます。
エンゲージリング、マリッジリング、オリジナルリングのように○○リングという名前で1.5㎜幅の指輪にふさわしい名前を考えます。
シンプル、リーズナブル、カジュアル、ライト(軽い)などいくつか候補を出した中でこの指輪の一番の特徴は「細い」ことなので英語でなんというかを調べました。
thin/slim/slender/lean/skinny/gauntと、多数ある中でスリム、スキニーはよく聞く言葉でこの指輪の名前に合っていると感じました。
この2つを比較するとスリムは「ほっそりした、きゃしゃな」と言う褒め言葉で、スキニーは「やせこけた、骨と皮ばかりの」というマイナスの意味があるということで「スリムリング」という名前にすることにしました。
指輪がメッキから上がってきて
・幅、厚み1.5㎜の平打ち、甲丸
・素材はPt900とK18イエローのみ、
・価格29000円(税別)
・刻印なし
・制作方法は鍛造のみ
・追加20000円で幅1.8に変更、手打ち刻印あり
・納期1~2週間
というスリムリングコースの内容も決まりました。
4、受注前の確認
サンプルができたら地金の角棒の仕入れ先と卸価格を調べて受注する準備をします。
1.5㎜角線について
地金屋さんでは細い丸線や6㎜角棒が売っています。
地金線などは1㎝単位で購入できるので受注したら1.5㎜の角線をサイズごとに必要最低限の長さで仕入れば在庫を持たずに済みます。
もし売っていなくても2㎜位の角線はおそらく売っているのでロールで引いて細くして作る予定でした。
確認のために地金屋さんに仕入れに行くとと6㎜角棒以外は特注になるとのこと。
御徒町で何件か調べましたが、2㎜前後の角線を扱っているお店はありませんでした。
1.5㎜の角棒を特注すると工賃が4000円ほどということで安定して注文が受けられるようになるまでは在庫を持たない方法を考えます。
テクスチャーをつけるシンプルな甲丸や平打ちは1.5㎜の平打ちでゴム型を取り、鋳造で対応することで金、プラチナどちらも制作可能です。
問題はサンプルで作ったツイストのデザインですが、
1、ツイストだけは別にゴム型を持つ
コストを抑えるなら
2、鋳造上がりの貴金属の平打ちリングをカットして
ローラーに通して一度角棒にしてから
捻って指輪にする
という方法で対応できます。
今回は地金の在庫やゴム型も持たないコストが一番安く済む方法も考えてみました。
3、ワイヤーワックスを使う
市販のワイヤーワックスは断面が丸や甲丸などでNETでも調べましたが角線は売っていませんでした。
そこでワイヤーワックスをローラーで1.5㎜の角線に引くことにしました。
ローラーにそのまま通すと溝にくっついてしまいます。
そこでローラーの溝にエンジンオイルを垂らして3.2㎜の断面が丸いワイヤーワックスを通します。
油のおかげで溝にくっ付いても簡単に剥がすことができます。
1.5㎜の断面が正方形のワイヤーワックスができたので捻ります。
これで断面同士を溶かしてくっつけてサイズを出して鋳造に出せば問題なさそうです。
平打ちや甲丸も受注ごとに1.5㎜のワイヤーワックスで作ればいいのでゴム型も不要です。
これなら
・1.5㎜角のワイヤーワックス
・アルコールランプ、
・スパチュラー、
・サイズ棒
の4つがあれば5分ほどでWAX原型が作れます。
リングゲージを作る
画像は市販のサイズ棒とリンゲージです。
リングゲージは幅3㎜が標準で細いものは売っておらず、2㎜の指輪を作るとサイズ棒でのサイズは合っていてもフィット感が違うという問題がありました。
幅1.5㎜になるとこの問題がさらに顕著になりそうなのでリングゲージを作ることにしました。
コストを考えなければ原型を1本作って鋳造屋さんにサイズ違いで依頼するのが一番楽です。
今回はコストを一番抑える方法で作ってみます。
まず東急ハンズで売っている2㎜角真鍮棒をローラーで1.6㎜に伸ばします。
市販のサイズゲージは30までありますが、26号以上はまず必要ないのでサイズは1から25号まで作ります。
画像は1.8㎜厚のリングの幅ごとの重量と内周の一覧表です。
多少は伸びるので1.8㎜の板の長さでリングゲージを作ります。
A4用紙に5マス×5マスの線を引いてサイズの下に必要な長さ(㎝は省略)を書き込みます。
定規の上に真鍮棒を置き、指定の長さよりやや短めにカットして並べていきます。
これは指輪を溶接した後に真円を出すために芯金に入れて叩くと1から3号くらいは伸びるためです。
口を合わせたときに隙間が空かないようにニッパーで切った後はヤスリで真っすぐにします。
サイズが合えばそこまで精密に作らなくていいのでサンプル制作のような糸鋸の作業は省きます。
角線をロールで引いた後は固くて曲がらなくなっていたのでカットした25本をバーナーでなましていきます。
この作業は1.5㎜に引いた1本の角線の段階でなましておくほうが無駄がありませんでした。
5本1セットでなましていきます。これも1から順番ではなくマスの縦の列で1、6、11、16、21のように5号飛ばしで1セットにします。
水に入れて冷やしたあとにタオルに挟んで水気を取って乾かします。
画像のように長さが違うのがすぐわかるので長さを定規で確認しなくてもA4用紙の元の位置に戻すことができます。
なました角棒をヤットコで丸めていきます。
断面を合わせたら先程と同じように5号飛ばしの5本1セットでロー付けをします。
これも画像のように丸めてあっても5号飛ばしで作っているのでパッと見の大きさの違いでA4用紙の元の位置に戻すことができます。
芯金に入れてA4用紙に書いてあるサイズの真円を出していきます。
1~5号などはある程度丸くするのに小さい芯金を使っています。
サイズゲージは市販のものと同じように紐などが通る丸カンを付けます。
丸カンは1.0㎜の丸線で作りました。
指輪のロー付け部分にリューターを使って凹みをつけてピンセットで固定します。
固定する方法は逆ピンセットと固定台を写真のように置いて手で持たないで済むようにしています。
右手にピンセットを持ち、マルカンにフラックスを軽くつけます。
指輪の溝に丸カンを乗せて左手でバーナーの火を充てます。
こうすると指輪のロー材が染み出して丸カンとくっつきます。
新しくロー材を乗せて溶接する必要はありません。
この作業をを25本やってあとは磨けば完成です。
内面はサンドペーパーで磨いて多少大きくなることを想定してやや小さめに作っています。
とりあえず作業はここまでにして後日、磨く予定です。
鋳造で作ると高くなるのでコストを抑えて効率よくサイズゲージを作る方法をまとめてみました。
磨いたら変色しないように工具店で売っている酸化防止コートを塗っておきます。
これで受注の準備が完了しました。
あとはホームページにスリムリングのページを作るだけです。
まとめ
今回のプランは会社員時代に考えたプランを基に作りました。
その時は1.8㎜で金、プラチナ、ピンクゴールドで丸線と角線から選んでもらうという内容で価格も素材と形状で変えていました。
在庫を極力持たない方法で考えたのでオーダーの少なかったPGと丸線は無しにしました。オーダー価格も現在の地金相場では金とプラチナで金額がそれほど変わらなくなっているのでわかりやすく同額で行うことにしました。
最初は地金の在庫を持たずにWAX鋳造で制作して依頼が増えてきたら貴金属の角棒を在庫で持って鍛造技法で納期は1週間に変更する予定です。
なのでそれまで制作技法は書きません。
今回決めた内容で後日ホームページに固定ページを作ります。
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