【 オーダーメイドの指輪を作る過程 】
お客様から天球儀リングのご注文を頂きました。
天球儀(てんきゅうぎ/アーミラリ スフィア)とは地球の周りの星の動き、配置を説明するために使われる模型です。
17世紀は万有引力の法則を考案したアイザックニュートンや地動説のガリレオ・ガリレイなどがいたことで星に対する関心が高まりました。その当時の天文学者たちは自分の職業、天文学への興味があることを示すためにこの天球儀リングを身に着けたといわれています。
打合せ
今回ご注文の結婚指輪は奥様が海外にいらっしゃてご来店できないので旦那様お一人でのご来店でした。
HPに載っている天球儀リングを注文したいということでデザインの変更は一切なく、メンズ、レディースともに幅は3㎜、艶消し仕上げで、素材はPt950でご注文となりました。
海外にいらっしゃる奥様には無料貸し出しのリングゲージもご提案しましたが、現地でサイズを測るということで旦那様にメールで日本と海外のサイズ表一覧をお送りして、奥様への転送をお願いしました。サイズ直しができない仕組みになっているので、サイズ決めは慎重にと強調してお願いしました。
ご依頼の指輪の形はサンプルと全く同じなので男性側だけ試着リングをお作りしてサイズの確定後に原型確認もなく、完成まですすめました。
指輪を作る
この天球儀リングはCADで作っていて原型データがあります。
通常の模様リングであれば指輪の端の修正でサイズ調整を簡単に行うことができます。
この天球儀リングの場合は上から見たときに上下左右の4か所に回転する仕組みパーツが来ます。
どんなリングサイズでも厚みは変えずに回転するパーツ部分を移動させる仕組みを考えましたが、サイズが変わると円のアールが変わるため良いアイデアが浮かびませんでした。
時間があれば何号で注文がはいってもすぐに対応できるテンプレートのようなものをつくろうかと思っています。
今回はメンズが14号、レディースが13号で作ることになりました。
原型13号で作って片方は1号伸ばしということも考えましたが、芯金に入れて真円を出すときに回転部分の穴が楕円になったり、地金の薄い部分が割れたりするかもしれないので原型は別々で作っています。
サイズが1号しか違わないので、間違えないように指輪を繋ぐ湯道部分にメンズはM、レディースはLと入れておきました。
鋳造から地金になって上がってきたら混ざらないように別々に仕上げていきます。
制作過程はまず樹脂原型からゴム型を取ってワックスパターンを取り出して、
鋳造作業を経てプラチナになってから仕上げていきます。
4本の指輪に分解して、湯道をヤスリで仕上げて、
内側と外側になるそれぞれ2本をタガネを使ってかしめていきます。
内側と外側の2本ができたら組み合わせて、
芯金に入れてサイズを出します。
その後外側の指輪の中心にカッターの刃を入れて腕を開いて、天球儀の形にしてサンドペーパーで内と外の接地面を磨いていきます。
回転がスムーズになるように内側の指輪はヤスリで平甲丸状に角を落としてもいいかもしれません。
この手順だとパーツが4個だけで済むので一番効率が良いと思っていましたが、内外を合体させるのも、天球儀に変形されるのが硬くて苦労する事と地金に負担もかかっていそうな点が気になりました。
そこで別の方法を考えました。
これまで外側の指輪に付けていた内外を合体させるピンの部分はφ0.7㎜凹みか穴にしておきます。
内外をそれぞれ作って重ねて、回転がスムーズになることを確認したら上下でφ0.7㎜のピンを差し込んでかしめれば組み立て後の天球儀に変形も苦労せずにできます。
φ0.7㎜のピンは原型につけて鋳造でも市販のピアスポストを購入して使っても良いと思いますし、ピンが外れないか気になるならレーザー溶接で表面を溶かして埋めるのも良いかもしれません。
この方法なら作業時間も大分短縮できるはずなので、次回ご注文があったときは試してみる予定です。
話を戻します。出来上がったプラチナリングは内面を仕上げてレーザー刻印を依頼します。
刻印は上下で分割したパンゲア大陸と流れ星を入れています。
パンゲアという言葉は1912年にアルフレート・ヴェーゲナーが提唱する大陸移動説の中で、古代ギリシャ語のpan(全ての)とGaia(大地)から命名されました。
2~3億年前に存在したこのパンゲア大陸が分裂して現在の世界地図で目にする大陸になったといわれています。
指輪の形は同じでサイズが1号違うだけなので、刻印の形でメンズとレディースを見分けることができるようになっています。
こちらがご納品風景です。
お受け取りは旦那様だけでご来店だったので、奥様の分も含めてお客様自身で指輪⇔天球儀に変えられるかどうかも確認して頂きました。
お二人での撮影がなかったので、通常は後日発送のフォトアルバムも今回はご納品時にお渡ししています。
HPで公開する
ご納品後に公開した作品集のページでは指輪の名前は天球儀の英語名Armillary sphere(アーミラリ スフィア)にしました。
まとめ
客注天球儀リングについては以上です。
今回改めて天球儀リングは指輪一つの樹脂造形代とゴム型代は通常の結婚指輪ペア分よりも高く、指輪同士を繋ぐ湯道の地金代や作業にも手間がかかることが分かりました。
他の指輪に対して安めの設定になっていたので、ご納品後に「天球儀への変更」追加料金を1本8万円から10万円に変更しています。
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