【 オーダーメイドの指輪を作る過程 】
このブログの#068指紋リング、#069刻印&内石見本リングではシンプルなマリッジリングをご希望のお客様におすすめできるデザインについて考えてきました。最後は「カリグラフィー」の指輪です。
カリグラフィー(Calligraphy)とは西洋や中東における文字を美しく見せるための手法で日本語では書道と訳されます。
指輪の表面にこのカリグラフィーを模様として入れたサンプルができるまでを説明していきます。
指輪のデザインを考える
指輪の表面に文字や絵をレーザー刻印で入れるのはマリッジリングでは定番のデザインです。昔購入した雑誌の特集でこのカリグラフィー載っていたのでシンプルな指輪も指輪の正面に模様として入れたらオーダーメイドならではのオリジナル感も出るのでサンプルを作ることにしました。
指輪表面の文字に関してはレーザー刻印でも彫れますが、以前にブログで公開したリアル動物ペンダントと同じように顕微鏡を使うと細かく彫る作業も問題ないので当初は手彫りにしようと思っていました。
まずは指輪の表面に入れる文字を決めます。結婚指輪に内側に入れる刻印は記念日と名前を入れることが定番になっています。例えば平成元年生まれで一番多い名前の翔太さんと愛さんの場合が20××年の11月22日に(いい夫婦の日)に入籍する場合は「20××.11.22.S&A」と指輪の内側に刻印します。
以前にこの刻印をベースにしてPOESY/DIVIDEというサンプルリングを作ってWORKSに投稿しています。
これはCADで「2018.11.22.S&A」という文字を上下に分割して模様として表面に入れて2本を重ねると文字が読める結婚指輪ではよく見かけるデザインで作りました。
今回作るカリグラフィーのサンプルリングには結婚指輪の文字として最も相応しいのは結婚するお二人の名前(イニシャル)だと思い、
日付けを抜かしたS&Aの文字を表面の半周に入れた甲丸で作ることにしました。模様部分は半周なのでサイズ直しもきれいにできます。3、4、5、6㎜の幅で4種類の書体を組みあわせてTOPページのフォトギャラリーにも追加します。
表面に入れる文字はS&Aと決まったのでイラストレーターで書体を変えて候補一覧を作ります。
この中から3、4、5、6㎜の幅に合う4種類を選んでCADに文字をインポートします。最初からCADのテキスト機能で出しても問題ありません。
4種類の幅に合わせてどの書体を入れるか決めます。
文字の幅は1㎝で収まるように文字間や文字の大きさを調整します。
エドワーディアンは文字の装飾性が強いので一番幅広、トラジャンはシンプルなので幅は一番狭いリングという風に決めました。
今回はカリグラフィーということで文字だけでなく左右に植物の装飾を入れることにしました。装飾の幅は0.5㎜ずつなので文字も入れて幅は2㎝です。
当初は幅に合わせて麦の穂、バラ、葡萄、月桂樹など植物も4種類用意しようかと思い、画像も集めましたが、複雑になりそうなので止めました。
文字がおおよそ決まったら制作方法を決めます。
制作方法は
①真鍮リングにカリグラフィーを鏨で手彫り
②真鍮リングにカリグラフィーをレーザー刻印
②CADでカリグラフィーを模様として入れた指輪の原型制作
の3パターンを考えました。
真鍮リングは10㎝のリングを上下にカットして簡単に作ることができるので当初は①手彫りか②レーザー刻印のどちらかで考えていました。
①鏨を使った手彫りなら加工代がかからないのでマジックで線を引くところまですすめました。
ただ、手彫りだと味はありますが、彫るのに時間がかかり、普段慣れている作業ではないのでクオリティーも心配です。
②レーザー刻印は毎回同じ品質で時間もかかりませんが、4本分の見積もりを取ると少し高いと感じました。
③CADでカリグラフィーを模様として入れる原型制作なら樹脂原型、ゴム型、真鍮リングの鋳造を含めても金額はレーザー刻印の半分ほどです。ゴム型があれば量産してパターンを増やすこともできます。受注する場合も手彫りやレーザー刻印と違って追加料金がかかりません。ちなみに溝を埋めれば以前作った#061 幅見本リングも作れるのでこちらを先に作れば無駄がなかったと思います。
手作り感を出したい場合は鋳造を経て真鍮になった指輪のカリグラフィー部分の文字を手彫り鏨でなぞれば良いのでサンプルはCADで作ることにしました。
CADでの凹みは幅0.3㎜はないとゴム型を取ることが来ません。レーザー刻印はイラストレーターのデータを持ち込みで型取りを気にしなくていいのでその点は楽です。
先ほどのデータをどの部分も0.3㎜の凹みになるように調整をしていきます。植物の部分も線から0.3㎜の凹みで造形できるように修正します。幅に合わせて植物もカーブさせました。4、6㎜は植物と文字を繋げるとデザインのバランスも良さそうなので一体化させています。文字の輪郭が決まったら立体にしていきます。
高さ1㎜の文字部分の立体を4種類の甲丸リングのカーブに合わせて曲げて指輪表面の0.5㎜沈むように重ねます。文字を重ねた状態で甲丸の板を丸めて指輪の形にします。サイズは16号です。
指輪と文字が重なった部分を消して文字部分が凹んだ指輪が完成しました。
この大きさだと樹脂原型とゴム型代の金額が高いので、模様の入ってない指輪の下半分は消してから4種類の指輪同士を繋げて一つのパーツにします。
WAXパターンになってから半分と半分の断面同士を合体させて片側の模様を埋めて鋳造に出せば1本の指輪になって出来上がります。
今回は指輪の外側だけでなく内側にも同じ模様を入れました。
これでCADデータが完成したので樹脂原型を依頼してゴム型取り、WAXパターン待ちです。
サンプルの制作
WAXパターンが上がってきました。
画像のように片側のパーツの表と裏の文字をWAXで埋めて反対側と合体させて鋳造に出します。リング4本で分けて鋳造に出すよりも安くなります。
サンプルリングは表面が艶消しの金色で作ります。銀色になったときの文字の比較もできるように原型の状態も一つ鋳造してメッキをします。
真鍮になって鋳造から上がってきたら早速仕上げます。
画像のように出来上がったのでメッキに出します。
こちらが完成形です。
HPで公開する
指輪が出来たのでHPのワークスに投稿します。名前はCalligraphyにしてメインのアイキャッチ画像は左から3、4、5、6㎜が横一列に並ぶ写真にしました。文章はここまでに書いてきたカリグラフィーとは何か、お好きな文字を選べるだけでなくオリジナルで書体から作ることもできるといった内容や文字の部分はCADで模様として作るのでレーザー刻印や手彫りと違い追加料金もかからないことも書いておきました。
このカリグラフィーリングは結婚指輪のオーダーを検討しているお客様に見てもらいたいのでトップページのフォトギャラリー部分にも追加してリンクを張りました。
まとめ
カリグラフィーの指輪に関しては以上です。
ちなみに、指輪の表面に文字を入れる指輪では「ポージーリング」というものがあります。ポージー(poesy/もしくはposyポジー)とはフランス語で詩「POISE」のことです。ポージーリングはその名前の通り、メッセージなどを彫った指輪のことで13世頃から始まったとされています。
結婚指輪の基本デザイン ヒストリカルに入れるということも考えたのですが、「S&A」というお二人のイニシャルではメッセージとは違う事と現代では指輪の内側に刻印として入れることも多いので表面に文字を入れるデザインは加工事例の一つとしてワークスに追加しました。
①指紋リング
②刻印&内石見本リング
③カリグラフィーリング
と3回に分けて考えたシンプルなマリッジリングをご希望のお客様におすすめできるデザインについては以上です。
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