お客様持ち込みのルビーとグリーンガーネットを使って、ルビーはサイドメレのミル打ちリング、グリーンガーネットは蝶々モチーフのブローチをお作りしました。
どちらも素材はPt950、仕上げは鏡面で、小さいダイヤモンドがアクセントに2つ留まっています。
ご相談内容はお母様が
1、結婚して遠方で暮らすお嬢様にデザインは本人に決めてもらい、ルビーの指輪を贈りたい
2、ご自身は蝶々をモチーフにしたペンダントにグリーンガーネットを留めて作りたい
というご相談でした。
(このあとメールでの打ち合わせでペンダントはブローチに変更になりました。)
お嬢様も一緒にご来店され、お会いしての打合せはこの1回だけで、この後にお二人それぞれにメールでデザイン提案、ご納品は宅配で行いました。
画像は発送前のご納品一式です。2つ一緒にご注文だったので結婚指輪と同じように原型は1つにまとめて金額を抑えています。
今回は樹脂原型の確認は不要、真鍮の試着リングも不要ということになり、3Dのデザイン画の確認後はご納品となったこともあり、通常よりも納期も短くなりました。
指輪はエンゲージメント、ペンダントはアザース(指輪以外のオーダー)の料金表で計算しています。このあとデザイン変更でブローチに変わりましたが、計算方法は同じです。
指輪とブローチは制作手順が全く違うので完成するまでの流れを2つに分けて説明していきます。
ルビーの指輪
写真は出来上がったルビーの指輪と制作時に作ったデザイン画です。
今回のデザインなら写真のように手作りでも制作可能ですが、
1、納期が短くなる
2、金額を安くできる
3、デザイン画と実物の誤差が生まれない
4、完全に左右対称に作ることができる
といった理由で、現在は中石の石座がある指輪はCADと3Dプリンターを使うデジタル技法で作っています。
ご来店時の打ち合わせでは
エンゲージメントリングのページを見ていただき、
デザインを絞っていきました。
婚約指輪は中心に大きいダイヤのついた
「ソリテール」と呼ばれる形が基本です。
エンゲージリングのオーダーメイドではラウンドカットの中石が一つだけでも石座、爪、腕の形などの組み合わせでも様々なデザインが考えられます。
自由度が高すぎて、どんなデザインにするか迷ってしまうので、当店では定番の一粒石の婚約指輪、ソリテールを例にとって中石(センターストーン) 、石座(シャトン) 、腕(アーム)の3つに分けて順番に決めていく選択方式でお客様には説明しています。宅配のお客様にもこの説明がわかるようにエンゲージリングページには画像付きの説明を載せています。
ですので、ご来店の場合でも、その場で決めきれない場合はご自宅でゆっくり考えることができます。
ページの最後には正面と上面の形が分かるサンプルリング画像を
1、脇石なし
2、脇石2～4石
3、脇石5石以上
の順番で公開しています。
お客様はサイドメレと呼ばれる脇石2つのタイプが欲しい指輪のイメージに近いということだったので、画像の指輪を参考に
・中石の両隣にダイヤモンド
・腕は中石に向かって絞り
・腕にはミル打ち
・腕の幅は2.5㎜
・素材はPt950、仕上げは鏡面
・中石は4本爪留め
・上から見た石座はシンプルでストンとした形
という風にデザインを決めていきました。
指輪のデザインはシンプルな分、刻印にはこだわりたいということで、ご自身と旦那様、お子様2人の星座を内側に入れることになりました。
星座刻印は写真の星座模様の指輪を作った時ののデータがあるので、それをそのまま使います。
金種側にはお客様がお好きな「トマト」をアイコン刻印として入れることになったので、手書きのイラストを描いていただきました。
制作過程ですが、まず決まった条件を元にCADでデザイン画をお作りします。
細かい部分はお任せということになったので、
中石のルビーに対して
両側のダイヤはバランスの良い大きさの2.0㎜、
留め方は絞り腕なので3点留めにしました。
上から見た時の形は石座横の腕の厚み2.5㎜、指輪の真下1.6㎜と指輪の下から上に向けて厚みが増えるようにしています。
中石石座があるとこの方がバランスが良い事と絞り腕はストレート腕に比べて強度が弱くなるので、厚みで補強する意味もあります。
日常生活で邪魔にならないように
できるだけ石座の高さは抑えました。
完成した立体データと一緒にデザインの詳細を1枚にまとめた画像のPDFをメールでお送りします。
同時期にデザインのOKが出たブローチとともに2つのデータを1つにまとめて、
樹脂造形、ゴム型、WAX取り出しの工程を経て、
鋳造から上がってきた指輪を
芯金に入れてサイズ出し、
石留めをして、ミル部分を専用のミル鏨(タガネ)でなぞって粒の一つ一つに艶を出します。
その後にレーザー刻印、仕上げを経て完成となります。
刻印は中石を中心に2つに分けました。
星座刻印は画像のように
乙女座/Virgo → 旦那様の星座
獅子座/Leo → 奥様(ご依頼のお嬢様)の星座
水瓶座/Aquarius → 長男様の星座
魚座/Pisces → 長女様の星座
の順番に入っています。
出来上がりがご満足いただけたようで、宅配で指輪を受け取ったお客様から手に着けた写真とお礼のメールをいただきました。
蝶々のブローチ
続いては蝶々のブローチです。
最初はグリーンガーネットをメインにして
蝶々をモチーフにしたペンダントを
作って欲しいというご依頼でした。
デザインは予算内に収まる中でお任せしますという事で
自由度が高い分、逆に難しいご相談でした。
蝶々モチーフはこれまで作ったことがなかったので、まずはネット検索で
・蝶々モチーフジュエリー
・実物の蝶々の写真
・蝶々のイラスト、アイコン
を調べてどうするか考えて、
流行に左右されないアイコンのようなシンプルな蝶々の形で胴体の部分にグリーンガーネットを留める事にしました。
まずは縦10㎜×横15㎜に収まるように8デザインを作って、
PDF1枚にまとめてメールでお客様にご提案しました。
・胴体の中石 → 4本爪か覆輪留め
・頭の宝石 → アリ、ナシ
・羽の形 → 2枚羽か4枚羽
・羽の宝石 → アリ／ナシ
を選んでいただくだけなので、これなら選択式なので悩まずに決める事ができます。
このデザインが気に入らない場合も考えてPDFには他社のペンダント画像、蝶々のシルエットイラストも載せました。
・中石を胴体に見立てたデザイン
・羽の宝石はφ1.5㎜×14PC、宝石以外の地金部分はミル風でランダムな粒々
・羽の宝石はナシなら仕上げ10種類から選ぶ
・蝶々の輪郭は白銀比(1:1.414)に収まるように制作
・チェーンは取り外しできるペンダントにできるように裏面にペンダント通しの板を立てる
という説明も載せています。
羽にダイヤモンドを入れる場合は隙間なく敷き詰めるパヴェ風ではなく、ミル風でランダムな粒々にすることで宝石の数は少なく、キラキラ感が出て、一緒にご依頼いただいたルビーリングとのお揃い感も出ます。
このブローチのご相談を受けていた時期に手作り指輪のお手伝い、撮影で知り合いの女性職人が工房に来てくれていました。
作ったPDFを見せて意見を求めると、女性はこういったデザインが好きかもしれないということで、3型のラフスケッチをしてくれたので、お客様にはこのデザインも合わせてご提案しました。
その後、3型のラフスケッチの中の斜めの蝶々で、羽の形はお任せするのでペンダントをブローチに変更はできますかという返信が来ました。
ブローチは針の長さは最低3㎝は必要なのでトップも同じ位の大きさが必要になります。
トップの幅は2倍、薄く作っても地金重量がご提案したペンダントの倍以上の重さになり、ブローチ金具代とその溶接代もかかります。
ご予算内に収めるため、羽の部分は幅1.5㎜、厚み1㎜の棒状にした透かしデザインに変更、宝石もグリーンガーネットの上にアクセントとなる2.0、1.5㎜のダイヤモンドが１PCだけ留まるデザインに変更しました。
2枚の羽の間には胴体部分も作り、強度が保てるようにしています。
プラチナ地金は比重がシルバーの2倍あり、思いと金額が高くなるだけでなく、針の曲がりやすくなることも考えられます。
見た目のバランスの良さだけでなく、強度と軽さを考えて作った結果3.5g以下に収めることができました。ちなみにこれは地金になってから測ったわけではなく、CADの重量計算機能を使っています。
この透かしのデザインですが、ゆくゆくはお母様からお嬢様に譲ることも考えて、デザインはシンプルな形で流行にも左右されない形にすることを意識しました。
再び画像のようにPDF1枚にデザインをまとめ、下段に金額内訳を載せたお見積りをメールしました。
PDFと一緒に完成した3Dデザイン画をお送りしてOKが出たので、リングのデータと合わせて樹脂造形、鋳造へと進みました。
バタフライパーツ部分が鋳造から上がってきたら、仕入れておいたプラチナのブローチ金具と組み合わせていきます。
定番のブローチ金具は針根本の受け部分(ボーズ)を支点に針先端が遮断機のように上下して反対側の凹み部分にある留め具(風車)に収まる仕組みになります。
風車、ボーズ、針は別売りでそれぞれ形状やサイズも多数ある中で一番安く、針が短いものを選びました。
まずはバタフライパーツをおおよそ仕上げて風車、ボーズをロー付けします。
続いて脇石、中石の順に石留め、
金種、中石とダイヤモンドの石目(重さ)刻印をパーツの裏面に打って、全体を仕上げます。
最後にボーズに針を固定してサッと仕上げて完成です。
仕入れた状態では針の先端は尖っておらず、円柱状です。
1、針の先端を少しカットして
2、針の根本をボーズ上部の溝に入れて
3、ボーズ横の穴にカットした針先端を差し込み
4、ヤットコでボーズ横の穴に刺さった針をかしめ
5、針の先端を風車に収まるように尖らせ
6、スムーズに動くか確認
という工程を経て完成となります。
最初にブローチ金具を完成させてから、石留め、仕上げをすると作業中に針を曲げることがあるので、上記のように針の取り付けは最後になる手順で作っています。
今回はご納品が宅配だったので、ストールに取り付けて、スムーズに動くかなどの確認してからご納品しました。
特典の木箱に入った原型や大きいトート、保証書はリング、小さいトートはブローチと一緒にそれぞれご指定の住所にお送りしました。
今回は特典のフォトアルバムも無しでOKとなったので、写真のみメールでお送りしました。
まとめ
普段は指輪のオーダーがほとんどです。
オーダーメイドはやはり金額が気になると思うので、指輪や宝石の価格と同じようにアザース(指輪以外のオーダー)のページではパーツ部分のオーダー基本料だけでなく、よく使うパーツやチェーンの価格、溶接などの加工料金一覧も公開しています。
パーツの価格はお店を始めた時の純プラチナ、純金の地金相場が5000円以下の場合で表示しています。時期によっては価格が変わりますので、ご了承下さい。
宝石はお持ち込み料などもいただいていません。地金のチェーンやパーツに関してもお持ち込み可能です。
ジュエリーリフォームでは使っていないジュエリーがあれば金具だけ切り取って再利用できる場合もありますので、もしあればご相談時に一緒にお持ち下さい。
地金買取は行っていないので、金具を切り取って残った部分はご返却します。