【 オーダーメイドの指輪を作る過程 】
お客様からのご注文で飼っている蛇をモチーフにした結婚指輪を作りました。写真のように目には宝石が入るPt950とK18YGのコンビリングになっています。
今回のブログでは写真のスネイクリングが出来るまでを書いていきます。
原型データを作る
ご来店での打ち合わせではスマホの画像をお持ち込みで飼っているヘビをモチーフにした結婚指輪を作りたいというご相談でした。
1、蛇をデフォルメせずに実物風に
2、蛇の頭を尻尾に乗せて寝ている横顔
3、目には誕生石
4、腕の幅は2.5㎜幅
5、頭と尻尾パーツは2.5㎜幅より多少幅広でもOK
上記5つの条件で、イラストのように上半分の蛇の部分はプラチナ、下半分の甲丸部分は18金で切り替え部分は斜めという所まで決めて、まずはデザイン画をメールでお送りすることにしました。
当店の結婚指輪SNAKEは形が違うので原型データは1から作っていきます。
まずはお持ち込みのヘビの画像をCADに取り込んでスケッチします。
この段階で問題が発生しました。
目に入れる宝石の最小サイズは1㎜です。これでも十分小さいのですが、ご希望の幅2.5㎜腕に頭を合わせると宝石の大きさは約0.6㎜になります。宝石サイズを1㎜にしても頭の大きさは4㎜になってしまいます。これに先ほどの条件「2、蛇の頭を尻尾に乗せて寝ている横顔」が加わるとさらに幅が広くなります。
そこで目の部分は地金の球体にしてデザイン画にした時に目だけは大きくなるので、実物に近い石ナシ、デフォルメ風の石アリで選んでもらうことにしました。
尻尾を入れるにしても頭は2.5㎜の幅に抑えないといけないのでスケッチしてまずは立体にします。原型の樹脂造形では0.3㎜の隙間が必要なので、この蛇の顔の特徴部分だけを模様として入れることにしました。これも目と口だけで良いという場合も考えられるので、デザイン画の段階でどこまで入れるかお客様に選んでもらうことにしました。
頭のパーツができたら2.5㎜幅の腕に合わせて尻尾のパーツと組み合わせてバランスを見ます。尻尾の大きさ、反り方などで微調整してみましたが、頭を2.5㎜幅に収めると顔が小さくバランスが悪い印象で納得のいく出来になりませんでした。
そこで
「5、頭と尻尾パーツは2.5㎜幅より多少幅広でもOK」ということで顔と尻尾が膨らんだ形で作ってみるとバランスが良くなりました。
尻尾は顔と同じよりも細いほうがよかったので、画像下のパーツで指輪のデータを作ることにしました。
指輪のデータができたらコンビリングの切り替えにします。
この斜めの切り替えは画像のままか、赤ラインの2種類から選んでもらうことにしました。
データが出来たらデザイン画を載せて
①指輪の形状の変更(宝石あり、なし)
②コンビ切り替えの斜め具合
③顔の表情
を選んでもらう内容を書いてPDFにまとめます。
それから仕上げです。
画像を付けて
A.微細なクロススクラッチ
B.小さい槌目
C.幅2.5㎜に蛇の頭を収めた場合のイメージWAX
D.他社シルバーアクセの定番鱗模様
E.鏡面仕上げ
から選んでもらえるようにしました。
シルバーアクセの定番鱗模様はCADで作ってみましたが、結婚指輪には合わないので不採用になりました。
A,Bの仕上げ見本リングはサイズ確認リングと一緒に発送して、最終的に仕上げは2本とも鏡面に決まりました。
この後、デザインとサイズが確定したので原型データを完成させます。
コンビリングなのでメンズとレディースで画像のように4つのパーツに分けます。
斜め部分には片側に凹凸を付けました。この凹凸を合わせてロー付けすると断面同士がずれません。
ゴム型は1つに収めたいので4つの原型データ上で4つのパーツをどう繋げばサイズが一番小さく(安く)収まるか考えます。
樹脂原型ができたらお客様に見ていただきます。
現在は最初の打ち合わせの時に樹脂原型を①ご来店、②郵送、③画像をメールで確認の3つから選んでもらっています。①はお客様のご都合次第で、②だと発送と返送でおおよそ1週間くらい、③が一番早くご納品できます。
今回は②で樹脂原型を確認していただきました。発送した樹脂原型がこちらに戻ってきたら納期が確定で、今回は1か月後にご納品となりました。
液ゴムから取り出したWAXパターンを分解して余計な柱の部分は取り除いて金とプラチナで鋳造を依頼します。
指輪を作る
画像のように上がってきたので完成まで仕上げてしまいます。
先ほど説明したように凸凹部分があるので凸部分を少し削って凹部分に差し込みます。
凸凹部分に16金ローを流して反対側の断面同士も溶接、サイズ出し、全体を仕上げます。
あとは目の部分にそれぞれの誕生石を入れてレーザー刻印に出します。
今回、目に入れるお二人の誕生石は偶然にもこの白蛇の目と同じ、7月のルビーと10月のピンクトルマリンという赤色石でした。
今後サイズ直しがあることも考えて、レーザー刻印は画像のように溶接面を避けるように2分割しました。
レーザー刻印から上がってきたら全体を仕上げ直して完成です。
あとはこれまで通りご納品準備をします。
今回からお渡しする特典のフォトアルバムは
①ご来店時のお二人を撮影してご納品時にお渡し
②原型確認時のお二人を撮影してご納品時にお渡し
③ご納品時にお二人へのお渡し風景、指に指輪を着けた写真を撮影して送料無料で後日発送
の3つから選べるようにして今回は③になりました。
HPで公開する
ご納品後にお客様から蛇の写真の公開も了解がもらえたので作品集のページで公開します。
ここまで書いてきた内容を一般のお客様向けにオーダーメイドではどういうご提案ができるかなどイメージが膨らむように書きます。
今回のポイントは打合せでは飼っている蛇の画像をお持ち込みで
1、蛇をデフォルメせずに実物風に
2、蛇の頭を尻尾に乗せて寝ている横顔
3、目には誕生石
4、腕の幅は2.5㎜幅
5、頭と尻尾パーツは2.5㎜幅より多少幅広でもOK
とお客様の希望条件を満たした上で長く使えるシンプルなデザインにしたことです。
まさにオーダーメイドならではの指輪になったのでそのことについて重点的に書きました。
まとめ
ご注文のスネイクリングについては以上です。
当店でご用意していた画像の結婚指輪サンプルはお客様に刺さらなかったので、今後CADで頭のサイズを小さくしたサンプルを作り直すかもしれません。
追記20210511
お客様から横顔タイプの注文が入ったので、今後も蛇の指輪はご依頼があるかもしれないという事と結婚指輪ページで公開している写真のスネイクリングはコストを抑えるために頭の部分は地金パイプをカットしてを作りましたが、見直してみるとデザインがイマイチで頭のサイズももっと小さいほうがいいのでCADで頭の部分だけ作り直すことにしました。
改めて説明するとスネイクリングはその名前の通り、蛇をモチーフにした指輪です。
19世紀のイギリスではヴィクトリア女王が婚約指輪として蛇をモチーフに指輪を身に着けたことでが流行し、現在も幸運、知恵、官能的というイメージのある蛇をモチーフにしたジュエリーは海外の有名ブランドでも多く見受けられます。
この内容はブログの#033 スネイクリングに詳しく書いてあります。
丁度、同じ時期にクラダリング、ポイズンリングの新型を作っていたのでこの樹脂原型と一緒に造形することでコストを抑えて作ることにしました。
頭のCADデータはフラットな状態で作って指輪のカーブに合わせて曲げています。
体の部分は3㎜の甲丸でいいので頭の部分だけ作り、あとでWAXパターンの腕と合体させて鋳造します。
真鍮で鋳造依頼をして、上がってきたら仕上げてメッキをします。
完成形がこちらです。
メンズはこれまで通りストレート腕で蛇が自分の尻尾を加えたデザインで、レディースは頭と尻尾が絡み合うタイプにしました。
どちらも頭と尻尾の溶接をしていないので指関節が出ていても根本でフィットさせることができます。
マリッジページではスネイクリングは画像のように差し替えました。
今回作った客注コンビリングもアレンジ例としてスネイクリングのページに載せています。
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