ジュエルクラフト東京

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#108
セットジュエリーリング

【 オーダーメイドの指輪を作る過程 】


前回のブログで説明したポイズンリングのアレンジ例のような形でセットジュエリーを収納できるボックスリングを作りました。
 
  
 
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今回のブログではこの指輪ができるまでを書いていきます。
 

 

デザインを考える

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ブランドのミキモトに矢車というジュエリーがあります。

1937年にパリ万国博覧会に出品された帯留で専用ドライバーで分解すると、ブローチ、指輪、髪飾りなど12種類のジュエリーとして使うことができるそうです。
 

 
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この矢車を見ていて、日常使いできる小粒のダイヤモンドが留まったリング、ペンダントネックレス、ピアス、ブレスレットなど一つにした今風のセットジュエリーを作れないかと思いました。
 

 
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前回のブログで説明したポイズンリングのようなボックスの中を大きくしてセットジュエリーを収納する形なら需要もありそうなのでサンプルを作ってみることにしました。
 

 
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最初は収納スペースに無駄がない四角いボックス型を考えました。
 

 
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指輪だけは外に出ていて石座だけ箱の部分に入るデザインになっています。

・ピアスは可動式にして折りたたむ
・箱の中に仕切りをつける
・箱の中で石座が動かないように上下に固定用の出っ張りをつける
・ダイヤモンドは2.5㎜で覆輪留め
・ピアスは収納スペースが狭くて済むキャッチの不要チェーン付きのブラピアス

という風に箇条書きでセットジュエリーも含めてデザインをどうするか決めていきました。

ダイヤモンドは当初HPに料金表を公開している直径3㎜(0.1ct)で作るつもりでしたが、そのサイズの宝石と石座を見ているうちに指輪の箱部分に収納するには少し大きく、直径2㎜では小さすぎて目立たないので中間の直径2.5㎜で作ることにしました。
 

 
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チェーンやポストなどは既成のパーツを使うので、まずは石座を作ります。

ノギスで丸カンやシルバーの石座の寸法を測ってCADで原型データを作っていきます。必要な石座は全部で5個です。
 

 
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指輪は幅1.5㎜の幅、厚みで作っていきます。あとで料金一覧も作るので計算しやすいスリムリングにしました。サイズは13号にしています。
 

 
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・ネックレス、ブレスレット用石座×1
・ピアス用石座×1
・石座付きスリムリング×1
のデータが出来上がりました。
 

 
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縦横のサイズは19㎜で仕切りと縁は幅1㎜、仕切りのスペースは一つあたり17㎜×5㎜です。

ネックレスとブレスレットはチェーンだけでなく引き輪とプレートも収納できるように片側はスペースを空けています。

ピアスはスペースを取らないのでリングの石座と合わせて同じ仕切り内に入れます。
 

 
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石座は場所を決めて収納できるように収納場所の上下に石座のアールに合わせた2㎜幅の出っ張りを付けました。
 

 
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ダイヤ付きの指輪を外しても使えるように箱の部分にも腕を取り付けています。

指輪は箱の外から差し込んで固定します。

ダイヤ付きの指輪の固定方法は箱の溝に石座を差し込んで上下の指輪で挟むことにしました。
 

 
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正面から見てずらすとこのようになっています。
 

 
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制作時は分かりやすいようにパーツごとに色を変えて制作しています。
 

 
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石座と箱ができたので箱の蓋を考えます。

プレーン、模様、パヴェの3つを考えて最終的には応用が利くプレーンにしました。
 

 
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パヴェも良いと思いましたが、19cmの正方形に直径1.5㎜もダイヤを配置すると100PCの宝石が必要なので断念しました。
 

 
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原型はゴム型が切れる形を考える所で一旦ストップしました。
 

 

原型を作る


先ほどのデザインをCADで作ってからしばらくして見直すと、正方形や長方形のほうが収納スペースは広いのですが、楕円形のほうがカッコいいので作り直すことにしました。
 

 
セットジュエリーリング50
それから指輪も地金の腕よりもチェーンリングのほうが他のジュエリーとの統一感もあり、フリーサイズにできるという利点が生まれます。
(写真は完成したセットジュエリーです。)
 

 
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指輪を地金の腕ではなく、チェーンリングにすれば石座と箱の部分だけを原型として造形をすればよいのでゴム型を切るのも簡単です。
 

 
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そこで正方形から楕円形に変形させて、5つの石座を使ったジュエリーが収まるように作り直すことにしました。
 

 

まずは上から見た輪郭で外側の淵は1.5㎜を確保した上で5つの丸カン付き石座と引き輪が収まるように配置します。

丸カンにはチェーンが付くので箱の隙間に挟まらないようにスペースを空けることも考えると画像のような配置になりました。

輪郭は縦26㎜、横21㎜とだいぶ大きくなりました。
 

 
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ここから金具と蓋のデザインを考えて本体と蓋の間にφ1㎜の丸線を差し込んで開閉する仕組みを考えました。

上から見たときに楕円から金具部分がはみ出さない所にこだわっています。

仕組みも決まったら蓋の形を決めます。当初はシンプルなドーム状で考えていましたが、宝石のカット状で作り、やすりで削ればドーム状にもなるような厚みで作ることにしました。

これで大まかな形は決まりました。縦横のサイズでは問題ありませんが、厚みが低すぎると蓋が閉まらない可能性があります。かといって高すぎると邪魔なので出来るだけ厚みは押さえたい所です。
 

 
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そこで写真のようにデータ上では本体部分を金具や石座を固定するパーツに当たらないように上下で分割し、間に外枠と内側の仕切り板を追加できるようにしました。

これで本体の箱の中の高さは最低5㎜から好きな高さで作ることができます。

蓋の上部のスペースもあるのでこのままでも大丈夫そうですが、少し余裕を見て1㎜プラスしました。

そうすると底板1.5㎜の本体8㎜+蓋2.5㎜厚で合計10.5㎜になりました。
 

 

これで原型データは完成なので樹脂造形してゴム型をとれるように蓋の上部と本体の下部を湯道を2本立てて合体させました。

この形でデータは完成です。
 

 

セットジュエリーを作る

ボックスリングの樹脂造形の前にセットジュエリーの説明をします。

セットジュエリーの石座は真鍮で他のパーツ部分はシルバーで2.5㎜の透明石はキュービックジルコニアで作ってK18メッキをします。
 

 
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石座は他の樹脂原型と一緒に丸だけでなく、八角形、六角形も作っていました。
 

 
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この石座セットをカットして丸い石座に石留めします。難しい加工ではないので、細かい手順は省きます。
 

 
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こちらはメッキ前の状態です。チェーン、丸カン、引き輪、プレート、丸カン付きピアスを用意して組み立てます。
 

 
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ブラピアス用のピアスは画像のような小さい丸カン付きはシルバーで売っていないので溶接して作りました。
 

 

作り直し

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ボックスリングを樹脂造形から真鍮で鋳造、実際に組み立ててみるといくつか問題点がありました。

・開閉する蓋部分が本体とぶつかるので削らないといけない
・金具部分がカチっと閉まらない
・蓋が90度しか開かないとジュエリーを収納しにくい
・石座の固定パーツはないほうが収納しやすく空間も広くなる

それから実際にセットジュエリーを入れてみると思ったよりスペースが空いていました。もう一回り小さく作れるので原型データを1から作り直します。
 

 
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トップパーツのサイズは縦23㎜×横13㎜×厚み10㎜にして、金具の開閉部分も形を変えました。
 

 
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それからセットジュエリーの石座丸カンはもっと小さいほうが格好が良いので一回り小さくしました。
 

 
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蓋、本体、セットジュエリーの石座を一つにまとめて樹脂造形をします。
 

 
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WAXパターンでボックスと幅3㎜の甲丸腕を合わせて、
 

 
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真鍮になって上がってきたら、
 

 
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全体をサンドペーパーで磨いて蓋にビス(長さを調整したピアスのポスト)を差し込みます。
 

 
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タガネを使って本体と蓋を合体させて
 

 
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ブレスレットはチェーンを組み込みます。

蓋と本体を閉じる箇所にあるポッチと穴はカチッとなるように曲げ、削りなど微調整をしています。
 

 
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お客様にチェーンの種類を説明するときに使うミックスチェーンブレスレットがあったので新しいチェーンを仕入れずに再利用しました。
 

 
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新しいセットジュエリーの石座にも石を留め直します。
 

 
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留め終わったら石座に金具やチェーンを組み込みます。

メッキの時にひかっける場所がないピアスなどは銅線をチェーンに通して一つにまとめておきました。
 

 
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チェーンリングのシリコンボールはメッキ前の希硫酸で洗う作業時にシリコンが溶けてしまうのでメッキ後に取り付けます。
 

 
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これでセットジュエリーと収納するボックスリング、ボックスブレスレットができました。

ブレスレットはワックスの段階で1㎜の丸線で丸カンを取り付けて鋳造しました。

トップが大きく重いので、指輪としては使いにくい場合を考えて今回はブレスレットを作りました。他のサンプル候補としてはネックレス、ペンダントトップ、ブローチ、バングルなどのサンプルを考えていました。
 

 

指輪の名前を決める

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セットジュエリーと収納するボックスリングができたのでWORKSに投稿する用に名前を考えます。

今回の名前は
1、オールインワン・ジュエリー
2、ジュエリー・イン・リング
3、ワードローブ
4、クローゼット
などを考えていました。

クローゼット(closet)は押入れのような衣類を仕舞う洋風の空間、または箪笥のような衣類をはじめとした様々なものを仕舞うための洋風の収納家具。

ワードローブ(wardrobe)は衣装ダンス、衣裳部屋の意味。

という事らしく、ワードローブ=クローゼットの中身のもの全てという意味でとらえられているけれど、ファッション業界内ではワードローブとは持っている中で普段着ているアイテムのこと~という記述があった事と単純に言葉の認知度が高そうなので今回のボックスリングの名前は「クローゼッ」トにしました。
 

 

HPで公開する

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名前も決まったのでこれまで通りWORKSのページに投稿します。

アイキャッチ画像は左に蓋を開けたリング、右にセットジュエリーを並べた画像にしました。

これで左側のシルバーの指輪に右側のセットジュエリーが収納できることがわかると思います。
 

 
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内容はこれまで書いてきた

・ボックスに収納できるオールインワンジュエリーであること
・衣類を仕舞う洋風の空間収納をイメージしてクローゼットと名付けたこと
・箱の部分はシルバーでリング以外にもネックレス、ブレスなども作りことができる

という内容を書き、最後に金額でまとめました。
 

 
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セットジュエリーの金額はアザースのページに載せている料金表で材料代と加工代を計算して合計金額を出しました。

シルバーのボックスリングは地金、鋳造、組み立て、仕上げ、サイズ調整などもすべて込みでオーダー基本料と同じ10万円で計算しています。

・「クローゼット」は試作品の段階で、素材は金やプラチナではなく、シルバーを想定して作っている
・蓋が外れにくいダブルロックにするなど、まだ改良の余地があるので、ご注文の場合は多少の仕様変更がある
・現在は試作品の段階なのでお持ち込みのジュエリーに合わせて収納スペースのサイズを変えるといった変更は受けていない

という内容を画像に下に書いてシルバー部分のみ単体での購入はできないことにしました。
 

 
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今回作った収納リングは蓋が何かの拍子に外れてジュエリーが外に出てしまうということがありそうです。
 

 
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正面から見たときスッキリさせたかったのですが、写真の騎兵金具のようなダブルロックの仕組みを足したほうがジュエリーを紛失に対しては安全なのでご注文があればその説明をして原型は作り直す予定です。
 

 
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HPで公開したらTOPページのフォトギャラリーに追加してワークスページへのリンクを張りました。
 

 

まとめ

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セットジュエリーリングに関しては以上です。

最初に思い付いてからの試行錯誤が多く、完成品ができるまで半年以上もかかってしまいましたが、他では見ないデザインになったと思います。

 


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