㊳メール対応でお問い合わせがあったエメラルドリングのリフォームを先日ご納品したのでその流れを説明していきます。
ご来店されて
・中石のエメラルドは覆輪留め
・脇石のダイヤモンドは4本爪
・素材はPt950で鏡面仕上げ
と、その日にデザインが決まりました。
ご来店・打合せ
お預かりした品物がこちらです。
エメラルドの指輪、ダイヤヤモンドのピアスとサイズ直しをご希望のコンビリングも一緒にお預かりしました。
エメラルドの指輪は現物を確認すると細かいヒビが多く、(このヒビを職人は「カン」、鑑別機関なら「フラクチャー」と呼びます。)お預かりの時も古い指輪の爪を外した時に爪下が割れている可能性もあることもご説明しました。
リフォーム規約も読んでいただき、その間に宝石の拡大写真も撮っておきます。
これで出来上がり後にお預かりした宝石の状態と変わっていないか確認することができます。
石を外す
エメラルドとダイヤを枠から外して寸法を測ります。
エメラルドはルーペで横から見ると欠けてるように見えました。
外してみるとやはり欠けていました。これも制作に入る前にお客様に伝えます。
これだけ大きい欠けは石留めをした時ではなく、購入してからぶつけて割れたのではないかと思います。
お客様にはデザイン画を送るときに石欠けがあったことと爪を被せてでできるだけ目立たないようにしますと、伝えました。
後で指輪に石の重さを打刻するので汚れを取ってキャラット秤で重さを測り直しておきます。
原型データを作る
石を外してノギスで寸法を測ったらCADを使って原型データを作ります。
宝石の寸法を測ってみるとエメラルドは横向きのほうが3つ並べたときにバランスがよさそうです。
以上を踏まえて
①打ち合わせの時に決まったデザイン
②エメラルドの横向き覆輪留め
③指輪の幅に合わせたエメラルドのレール留め
と、3つのデータを作りました。
お客様にメールを送る
画像のようなA4にまとめたデザインが送り3つの中から選んでいただきます。
一番バランスがいいと思っていた③に決まったのでCADデータを造形用に作り直します。
造詣用に
・下穴を開ける
・レール爪を伸ばす
・指輪の幅を0.2㎜広くする
という調整をしました。
樹脂原型は寸法通り出てくるので問題ありませんが鋳造での地金の縮み、石留めと仕上げでの減りなども考えて場所によって微調整をしています。
画像が出来上がりデータです。
こちらが造形用データです。
これで造形屋さんに納期と金額を聞きます。
直接鋳造できる樹脂原型もあるそうですがシルバーと金のみ対応できてプラチナは鋳造できないとのこと。
今回も通常の樹脂原型の造形と液ゴムをお願いしました。
オリジナルリングで書いたVLTゴムは別のお店です。
出来上がった樹脂原型とゴム型を鋳造屋さんに持ち込み、素材はプラチナ950でお願いします。
造形された樹脂原型はCADデータとの寸法誤差がなかったので画像のように宝石もピタッとはまります。
鋳造仕上げ
指輪が鋳造から上がってきたらまずは全体の下仕上げをします。
こちらも地金になった状態で0.1㎜の縮みもなくイメージ通りにあがって上がってきました。
指輪の真下には湯道があるので
膨らんでいます。
仕上げていくと画像のような大きなス穴が出ました。
後日、鋳造屋さんにレーザー刻印を依頼するときに聞いてみるとこの巣穴は無料で消してもらえるとのこと。
こちらがレーザー溶接で巣穴が埋まっている状態です。
キャスト磨きだとこの湯道からは大きなス穴は出てくることが多いので会社に勤めていた時は湯口をカットした段階でレーザー溶接機でその部分だけ溶かして埋めてから磨いていました。
融点の高いロー材で埋める方法もありますが、キャスト屋さんに湯口はレーザーで溶かしてから渡してもらえないかと聞いたところそういったことはやっていないので
1、仕上げの段階でス穴が出てきたら持ち込む
2、キャストから仕上げまでを頼んでほしい
とのことでした。
石を留める
今回の加工で一番気を付けることはエメラルドを割らずに留めることです。
知らない方のために説明しておくとエメラルドはダイヤやルビー、サファイアなどの宝石と比べて硬度が低く、割れやすい石です。
また、結晶化する段階で細かい「ヒビ」が入っているのが普通です。(このヒビを職人はカン、鑑別機関ならフラクチャーと呼びますが、お客様には「細かい筋」などマイナスイメージがない言葉で説明します。)
以前、これよりもヒビが酷いエメラルのリフォームがあり、さすがに怖いので空枠屋さんに依頼しようとすると「破損同意書」にサインを求められ結局、自分で留めたという思い出もあります。
1点物の宝石は地金と違ってやり直しができないので作業も慎重に行います。
作業は鏨(タガネ)とオタフク槌を使って留めていきます。
覆輪留めの場合は少しずつ爪を倒していって宝石が動かなくなったらあとは爪を外れないように寄せるだけにして破損しないように留めます。
爪を上から叩くのではなく、奥から手前に引っ張ってかしめるように倒していきます。
言葉で説明するとこれだけですが、ベテランの人がやってももう少し地金を寄せようとしたタガネの一打で割れたりするので緊張する作業です。
留まったら爪の上を処理してあとは全体をさっと仕上げてレーザー刻印を依頼します。
あとは全体を仕上げて完成です。
エメラルドは汚れを落とす際の超音波洗浄機でも注意点があります。
超音波の振動でカン(ヒビ)が拡がることもあるので仕上げでついた研磨材は洗浄機のお湯でふやかしてやわらかい歯ブラシでこすって・・・と扱いに気を付けないといけません。
また超音波で気を付ける理由がもう一つあり、昔はこのヒビにオイルを染み込ませて目立たなくさせていたので超音波で振動を与えすぎるとオイルが抜けて石が白っぽくなってしまうことがあったそうです。
というわけで最後まで気を抜かずに扱わないといけません。
ご納品
指輪が出来上がったのでお渡し準備をします。
おばあ様の指輪のエメラルドをお母様が持っているダイヤを足した指輪にして義娘さんに贈るという祖母、母、義娘と3代で受け継ぐリフォームでした。
デザインは
・リフォームで画像の宝石を3つ使う
・プレゼントなので好みのデザインが不明
ということで
お客様はデザインは流行なども関係ないベーシックな形を選ばれました。
このデザインなら義娘さんからそのお子さんへと引き継いでいけるのではないかと思います。
今回は細かい部分はこちらにお任せで1回目のご来店で打ち合わせ、メールのやり取りを経て2回目でご納品となりました。納期は1回目のご来店から1か月後でした。
まとめ
このリフォーム対応2では遠くにお住まいの方と
1、メールで打ち合わせをして
2、CADで指輪の原型を作って
3、それをイラストにしてメールで送る
という、パソコンを使った今では普通の方法でオーダーメイドの指輪を作りました。
当たり前のようですが、20年位前だと考えられないので技術の進歩というのはありがたいです。
特にCADは
・イラストがそのまま原型になる
・手書きのデザイン画よりも出来上がりイメージとの誤差が少ない
・従来の手作りでは時間がかかる原型制作が3Dプリンターのおかげで短時間になるので、オーダー価格を抑えられる
と、改めて
その価値を実感しました。
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