プラチナ950で指紋模様とオリジナル模様の入った結婚指輪をお作りしました。
正面楕円のパーツ部分にはお互い指紋、それ以外の模様部分はメンズが「人の指」、レディースが「葉と枝(植物)」をモチーフにしています。
仕上げはどちらも艶消しです。文字刻印は不要とのことで、金種刻印のみ入れました。
幅はメンズが正面7.0㎜、背面4.0㎜、
レディースが正面5.0㎜、背面3.0㎜で
作っています。
こちらがご納品セットです。
オリジナル模様は完全に1から作ったので、今回はこの部分を中心にご納品までの流れを説明していきます。
指輪のデザインを決める
ご依頼のお客様は指紋の結婚指輪のご相談で当店にお越し下さいました。
- 指紋の指輪について > View More
今回はお客様お持ち込みの海外サイトにあった指紋リング画像をベースに作りました。
見本の写真は使えないのでイラストにすると
・形状は月形甲丸で
・正面は指紋の入った横長パーツ
・両側にコリント模様(古代ギリシアの建築様式)
・背面はシンプルな甲丸
というデザインで、ご希望としては見本の両側コリント模様部分をメンズは指の形、レディースは葉と枝にしたいとの事でした。
指紋部分は画像のような角の丸い印台でもOKとの事。
メンズは普段着けているオーダーメイドで作ったシルバーリングを参考に側面を同じような指の形にしてほしいというご希望でした。
その指輪のデザインモチーフはYOHJI YAMAMOTOで販売されているバングルで、「ズジスワフ・ベクシンスキー」※の世界にインスピレーションを受けたデザインとの事でした。
見本の指輪は指の数が多く幅も広いので、結婚指輪位の細幅に合わせるなら指が小さく数も減ることになどにご了解をいただきました。
※ズジスワフ・ベクシンスキーはポーランドの芸術家で主に死、絶望、破損、廃退、廃墟、終焉などをモチーフに扱い、不気味さや残酷さと同時に荘厳な美しさを感じさせる画風が特徴。
レディースの指輪は透かしの葉と枝模様というご希望以外はこちらでのお任せとなりました。
植物模様は定番な分、色々な表現が考えられるので、ご注文いただいたら何パターンか作って選んでいく方法になりますとお伝えしました。
おおよそのデザインが決まったら素材やリングサイズ、幅や厚みを決めていきます。
原型データを作るCADソフトには素材ごとの重量計算機能があります。
決まった寸法を基に必要な地金重量を計算してお見積もりを作ります。
お見積りをメールでお送りして、その後正式にご依頼となりました。
まずは真鍮でご指定の幅、サイズで指輪を作ってお送りします。一緒にお送りするリングゲージと比較してもらい原型は何号で作るか決めていただきます。
この真鍮リングでリングサイズを決めている間にデザイン画を作ります。
上の写真は完成までにお送りしたPDFを印刷したものです。
メンズは3回、レディースは4回目でデザインが決定しました。
参考画像を集めてデザイン案を数パターン作って1つ選んでもらい、そのアレンジ例を数パターン作る、選ぶという作業を繰り返して少しずつ絞り込むという手順で進めました。
時間はかかりますが、複数回の選択を繰り返した事でご納得いただけるデザインになったと思います。
1回のメールでデザインの詳細をデザイン画、参考画像、お客様からの指示の文章などPDF1枚にまとめて見やすくしています。
指紋模様部分はお互いの指輪に相手の指紋を入れるので、お客様が本番のリングサイズを決めるまでに画像のようにトリミングした状態まで進めておきました。
画像は今回の指輪の最終デザイン画です。
ここからはメンズとレディースのオリジナル模様が完成するまでを順番に説明していきます。
メンズのオリジナル模様
最初はメンズ、レディースそれぞれ4パターンの指輪の展開図を作りました。
メンズは最初に画像下のまっすぐの指のデータを作り、見本の指輪のようにランダムに曲げました。
作ってみると幅が細い中に数の多い曲がった指だとそもそも指の模様だと分かりにくいと感じたので、真っすぐな3本指、4本指、5本指(手)を2パターン作りました。
その後、お客様からのご返信で
・指の本数は不自然でない範囲で多い方が良い
・同質の指が並ぶよりも節の位置大きさや長さ角度にそれぞれ表情がある指
・できれば指同士の間に隙間がある
というご希望がありました。
感覚的に最大幅8㎜の正面パーツに5本指だと細すぎてバランスが悪いと感じたので、4本指で画像のように3パターンを作ってお送りしました。
ちなみに指紋パーツと指の先端同士の隙間は強度を考えて0.5㎜厚の板で埋めています。
この段階では立体のデータも作ってスクリーンショット画像もお送りしています。
ご返信でAをベースに背面の甲丸部分をなくして、指紋部分以外はすべて指の形にしたいという大幅に変更はできますかというご質問が来ました。
この質問に可能ですと答えて上のデザイン画が出来上がりました。
これも立体にしてメンズは3回目のデザイン提案でOKとなりました。
レディースのオリジナル模様
レディースは透かしの葉と枝の模様ということで、まずはNET上で資料を集めるのに時間がかかりました。
まずはCADで画像のように配置しておおよそ4パターンのどれがお好きか選んでいただきました。
最大幅は5㎜、最小幅は4㎜から3㎜に変更になっています。
枝というよりは蔓(つる)のようなデザインをお選びいただいたので、それを2パターンとカクカクした枝を1パターン作ってお送りしました。
ここから立体にデザイン画も作っています。
その後、カクカクした枝が良いとご返信をいただいたタイミングで、海外ブランドで中石の付いた細い指輪の上に曲がった蔓と葉が乗る素敵なデザインの指輪が見つかりました。
今回のような指紋パーツにはこのデザインが合いそうなので、大幅なデザイン変更になりますが見本の写真をPDFにまとめて、
当初予定していたような背面が甲丸タイプとメンズに合わせた指紋部分以外は模様タイプの2つを作ってお送りしました。
その後、指紋部分以外は模様タイプに決まり、お送りした1枚の指輪を指定で同じように葉を躍動感がある形にしたいという変更希望がありました。
参考の指輪写真(※他社製品のためピクセル化しています)をCADに入れて葉の大きさや形などを合わせて画像のような3パターン作りました。
その後、一番下のご指定の幅に葉が全てが収まるデザインに決まったので、立体のデータをお送りしました。
ちなみに腕の幅は1.5㎜で、乗っている蔓は1.0㎜です。変形などしないように葉の部分が腕に重なるように微調整などもしています。
レディースはメンズより1回多い、4回目のデザイン提案でOKとなりました。
樹脂造形から指輪の完成まで
お二人ともデザインが決まったら、PCで原型データの確認が終わったら、
樹脂原型を造形します。
宅配で樹脂原型の確認が終わり、工房に戻ってきてから1か月後がご納品日です。
樹脂原型が戻ってきたらゴム型を取って、WAXパターンを取り出し、カットしてプラチナ950地金で鋳造します。
鋳造上がりの指輪のサイズ出しと仕上げをしてレーザー刻印にPT950の金種を入れたら完成です。
指輪のお渡し
写真が完成した指輪で、
ご納品の一式です。
ご納品時に記念撮影もして、その日の内に特典のフォトブックも制作してお送りしました。
今回ご依頼いただいた指輪は通常とは異なり、細かいデザインが未確定でした。
デザイン決定までに参考画像を集めてPDFにまとめて、何度かやり取りの必要があるので、お見積もりにデザイン料というものを追加しています。
また、細かいデザインは未確定の状態でお受けしました。完成時の重さも未確定なので、最も重い印台のような形状で地金代を計算、振り込んでいただきました。
お見積り時の地金代から鋳造上がり時の相場と重量をかけた地金代を引いて、想定よりも軽くなった分はご来店前に振込で返金しています。